中国初のワールドチーム誕生とは一体何だったのか?

ランプレ・メリダが、中国の企業であるTJスポーツに買収され、中国初のワールドチームとなる『プロジェクトTJスポーツ』が誕生する予定でした。

しかし、12月20日のUCIのプレスリリースでは、『UAEアブダビ』というチーム名でワールドツアーライセンスの発行が認められました。登録国も中国ではなくUAEとなり、TJスポーツの名前が見当たらない状況です。

※参考:Registration of UCI WorldTeams and UCI Professional Continental Teams for the 2017 season

最も混乱しているのは、所属選手たちでしょうが、わたしも動きについていけていません。

ランプレ・メリダから、プロジェクトTJスポーツ、そしてUAEアブダビへとなる一連の流れをまとめてみました。

TJスポーツ登場以前の中国でのサイクルロードレース事情

現在も開催されている中国国内で行われるUCI公認レースでは、HCクラスのツアー・オブ・チンハイレイクが最も歴史が古いです。といっても、2002年に創設されたレースで、中国でのサイクルロードレースの歴史は浅いと言えましょう。

ブームの兆しを見せたのは、2008年の北京オリンピックです。サムエル・サンチェスが金メダルを獲得した男子エリートロードレースの成功により、グローバリゼーションを進めたいUCIの意向もあって、2011年に中国初のワールドツアーレースであるツアー・オブ・北京が開催されます。ツール・ド・フランスを主催しているASOもバックアップしていました。

しかし、2014年をもってツアー・オブ・北京は廃止となります。さらに残念なことは、中国でのサイクルロードレース熱が高まったわけではなく、中国のロードレースの利害関係者たちの間でも、ツアー・オブ・北京の廃止を嘆くような声は上がらなかったと言われています。

一方で、ツアー・オブ・チンハイレイクやツアー・オブ・ハイナンを含めた、中国国内で行われるUCI公認レースは、アジアで最も多く開催されています。レースには当然スポンサーがつきますので、アジアで最も自転車レース関連のお金が動いている国は中国であるという見方も出来ます。

つまり中国とは、

・スポンサーにとって魅力のある地域(人口の多さ、経済成長率の高さ)
・UCIがグローバリゼーションを進めていきたい地域

という思惑が交差する土地なのです。

深刻な大気汚染という環境問題を抱える中国にとっても、クリーンな自転車を促進する社会的意義が存在することも大きいと言えましょう。

という状況で、TJスポーツはワールドツアーチームへの出資を検討し始めます。

TJスポーツが目をつけたチームはランプレ・メリダでした。

イタリアでは、ここ数年に渡って経済危機と言える不況が続いており、イタリアの鋼材メーカーであるランプレ社は年々コストが高騰するワールドツアーチームへの出資が厳しくなっていました。

2013年にランプレ・メリダとなる前までは、2012年までランプレ・ISD、2010年はランプレ・ファルネーゼヴィーニ、2009年までランプレ・NGC、2007年までランプレ・フォンディタルというように、セカンドスポンサー無しには成り立たない上に、そのスポンサーもコロコロ変わるような有様でした。

ゆえに、バブル経済に沸く中国資本企業からのスポンサーの申し出は、ランプレ・メリダの運営母体であるCGSスポーツにとって、美味しい話であるかのように、思えたのでした。

※参考:China set to enter the WorldTour, but what’s the plan?

イタリア登録から中国登録へ変わる

当初の予定では、TJスポーツ・ランプレとして中国初のワールドツアーライセンスを取得する予定でした。

ところが、それまでセカンドスポンサーを務めていたメリダ社にとっては、チーム名から自社名が消えることで、スポンサードするメリットが薄れると判断し、TJスポーツへ機材提供しないことを決めました。

数多くのセカンドスポンサー企業がコロコロ変わっていたことから分かるとおり、ランプレ社が提供できる資金はそれほど多くはありません。それに、イタリアの企業であるランプレ社にとって、中国登録のワールドツアーチームへの出資は、投資対効果の高い話とは言えないでしょう。

TJスポーツにとって、メリダ社の撤退は大いに誤算だったのではないかと推測します。

なぜなら、8月26日のTJスポーツによるランプレ・メリダの買収の発表の場で、ランプレ・メリダのGMを務め、TJスポーツでもGMを努める予定だったジュゼッペ・サロンニは『来月には新しいスポンサーを発表する』とコメントしていたからです。

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大口スポンサーが見つからないまま、つまりワールドツアーライセンス取得要件である出資金を満額用意する準備のないままに、見切り発車的にランプレ・メリダの買収を発表したようにさえ思ってしまいます。

その後、コルナゴ社がバイクサプライヤーとして決定しましたが、メリダ社ほどの資金提供の約束は得られなかったのではないでしょうか。

そうして、11月には書類不備を理由にTJスポーツへのワールドツアーライセンス発行を差し止め、予定されていたチームトレーニングを中止し、12月13日には中東のアブダビから資金調達が行われるとの報道が出ます。

未だに投資家や出資企業の名前は明らかにされていませんが、UCIとしても信頼に足る十分な金額を確認出来たとのことで、12月20日に正式にワールドツアーライセンスが発行させることとなりました。

しかし、中国初のワールドツアーチームの標語はどこへ行ったのやら、UCIに承認されたチーム名は『UAEアブダビ』であり、登録国は中国ではなくアラブ首長国連邦、いわゆるUAEとなっていました。

TJスポーツはワールドツアーチームへの出資から撤退するのではないか?という一部報道もあり、これまでの数ヶ月間の動きは一体何だったのか?と、狐につままれたような気持ちになります。

※参考:No more TJ: Lampre becomes UAE Abu Dhabi, gets WorldTour license

なんだかんだでUAEアブダビになって良かったと思う

沿道に観客が全くいないにもかかわらず、ワールドツアーを招致出来るほどの潤沢な経済力を持ったUAE、並びにアブダビからの出資であれば、ワールドツアーチームの運営に支障はないだろうと思います。

本記事執筆にあたって、TJスポーツについても色々調べてみましたが、結局のところ実態がいまいちよく分からない企業だということしか分かりませんでした。少なくとも『スポーツコンサルテーション業として、レース・イベントの開催』だけで、何億円も稼げているようには見ませんでした。

もはやUCIがサイクルロードレースのグローバリゼーション、もといドル箱である中国で確固たる地位を確立したい思惑ありきでの話ではなかっただろうか?と邪推したくなるほど、あまりにもお粗末なドタバタ劇です。

ゆえに、ひとまずお金は潤沢にある中東資本のチームになって、選手たちもホッとしているのではないかと思います。わたしも、ホッとしました。

ゆくゆくはUAEアブダビの実態を含め、まともなサイクルロードレースチームとして形が明らかになってくるでしょう。

2017年2月23日からは、スポンサーのお膝元であるアブダビツアーが開催されるので、当面はアブダビツアーで大活躍するために選手たちは準備をしていくのではないかと思います。

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