マチュー&ワウト&アラフィリップの直接対決2ndラウンドの裏でマッチアップした、世紀の対決とは?

コロナ禍に見舞われた激動の2020シーズン。大小問わず、何十・何百ものレースが中止となるなか、第二次大戦中も一度も中止になることがなかったロンド・ファン・フラーンデレンは半年の延期の末に開催。筆者的には、このロンドこそが2020シーズンのベストレースだと思っている。

宿命のライバル関係にあるマチュー・ファンデルプールとワウト・ファンアールトの両名が、モニュメントという大舞台で初めて優勝を同レース。最後は両名によるスプリント勝負に持ち込まれたが、ツールでピュアスプリンターを相手に勝利を収めた経験を持つワウトを、マチューの爆発力が上回り、マチューは初めてモニュメントでの優勝を飾ったのだった。

この両名とともにジュリアン・アラフィリップも優勝を争っていたことを忘れてはならない。念願のアルカンシェルを手にし、初出場となったロンドで、しかも北のクラシックを主戦場とするドゥクーニンク・クイックステップのエースを担い、終盤の勝負どころを経て、マチュー・ワウト・アラフィリップの3人で抜け出す展開となっていたのだ。

ところが、アラフィリップは不運にも、道路脇に停止していたモトバイクに激突し落車。手を骨折し、リタイアとなってしまった。もし、アラフィリップが落車しなかったら、マチューとワウトとのスプリント勝負の結果がどうなったのか。はたまた、オウデ・クワレモントやパテルブルグで誰か仕掛けていたのだろうか。といった「if」を考えたくなる。アラフィリップが落車しても神回だったが、それ以上の神回があったのではないかと期待したくなるからだ。

ということで、ストラーデ・ビアンケだ。「新・クラシックの王様」「最も南で行われる北のクラシック」「白い地獄」など異名を持つ、開催回数15回ながら、砂や小石にまみれた未舗装路を計63kmも走るという原始的なコース設計に、選手たちの支持も急上昇。もはやモニュメントに匹敵するほど、クラシックスペシャリストたちが血眼になって追い求めるタイトルとなっていた。

そして、マチュー・ワウト・アラフィリップの3人による、ロンド以来の直接対決が実現。過去の戦績でいうとアラフィリップは2019年、ワウトは2020年に優勝。一方、マチューは2020年に初参戦したものの、15位に終わっていた。

レースもこの3人を中心に展開。残り50km付近のセクター8、通称「ファビアン・カンチェラーラ」の名がつく11.5kmの未舗装路区間でアラフィリップがアタック。10人程度に減った小集団を、ワウトもマチューも積極的に回して絞り込みをかけていた。

続くセクター9の手前の舗装路区間でアラフィリップが再びアタック。ここで、ワウトが遅れを喫してしまうのだ。今季はストラーデ・ビアンケがロード初戦ではあったものの、ロードのオフシーズンにはシクロクロスで5勝をあげ、UCIワールドカップで1位を獲得するなど好調の様子だったのだが、シクロ世界選手権でマチューに敗れて2位となって以来、1ヶ月ぶりのレースだった。本調子ではなかった可能性が高い。

ここではすぐに集団に復帰できたものの、最終セクターの激坂区間でマチューが加速したとき、ワウトは為す術もなく完全に遅れてしまった。一方、世界一の激坂登坂力を持つといっても過言ではないアラフィリップは、マチューの加速にしっかり反応していた。やや遅れてエガン・ベルナルが追いついたものの、勝負の行方は実質的にはマチューとアラフィリップの2人に絞り込まれた。(ツール王者がここまで優勝争いしていることは驚嘆すべきことであるが)

普通に考えれば、カンポ広場に向かう最後の激坂区間でアラフィリップが仕掛けて勝負ありと予想するだろう。残り4kmの平坦区間でマチューがアタックを仕掛けていたことからも、おそらくマチュー自身もアラフィリップの激坂登坂力を相当警戒していたはずだった。

ところが、アラフィリップは余力十分といった様子で、マチューのアタックに対してベルナルが頑張って追うところを逆用。余計な加速はせずクレバーにゆっくりとマチューとの差を詰めており、最後の激坂区間に向けて万全の状況を築いていた。

ところがところが、いやまさかというべきか、激坂区間で最初に仕掛けたのはマチューだった。静かにシッティングのまま加速するも、アラフィリップとベルナルを突き放すには至らない。万事休すか、あとはアラフィリップがいつ仕掛ける・・・と思った矢先、マチューが腰を上げた。

一瞬の出来事だった。あっという間に、という言葉がこれほど適切な状況も他にないかもしれない。まるで平坦路でスプリントするかのような軽やかなペダリングでアラフィリップとベルナルを置き去りにしたのだった。激坂を上り切って、3〜4秒ほどのマージンを稼ぎ出すと、フィニッシュ地点へのコーナーと緩やかな下り坂へと突入していった。

カンポ広場へ単独でたどり着いたマチューは、ガッツポーズを何度も繰り出して喜びを表現していた。アムステルゴールドレースを勝った時よりも、ロンド・ファン・フラーンデレンに勝ったとき(接戦すぎてすぐに勝敗がわからなかった)よりも、激しいガッツポーズだ。

マチューが激坂区間で加速していた距離は100mほどだったと思われる。その短い激坂での加速力といえばアラフィリップの右に出るものはいないと思われていた絶対領域で真っ向勝負を仕掛け、完膚なきまでに叩きのめした影響はかなり大きいと思われる。アラフィリップが最も得意とするアルデンヌクラシックでも、マチューの勝利の可能性が高まったといえるだろう。

となると、ミラノ〜サンレモで優勝候補にあげられるであろうし、ロンドとパリ〜ルーベは言わずもがな、リエージュ~バストーニュ~リエージュとイル・ロンバルディアの勝利の可能性が出てきたことで、史上初のモニュメント同年全制覇も絵空事ではないように思えてきたのだ。

とはいえ、この日は本調子ではなかったワウトも黙っていないだろうし、ウルフパックの一員であるアラフィリップは必ずしも自分で勝利を狙うことに固執していないため、クイックステップのチーム力をもってマチューを叩きのめす展開も想像できる。クラシックシーズンはまだ始まったばかりだ。

◇       ◇

さて、本タイトルにもあるとおり、マチュー・ワウト・アラフィリップ、三つ巴の対決の裏で、歴史的なマッチアップが繰り広げられていた。J SPORTS vs GCN の仁義なき戦いだ。

ストラーデ・ビアンケの日本国内での放映権を、GCNに加えてJ SPORTSも取得したことで、おそらく国内サイクルロードレース史上初めて、ワールドツアークラスのレースで複数放送局が同時に異なる日本語実況・解説をつけたレースとなったのだ。

ストラーデ・ビアンケのみならず、ティレーノ~アドリアティコ、ジロ・デ・イタリアなどを主催するRCSの放映権をJ SPORTSが獲得したことを、多くのサイクルロードレースファンが歓迎していたことだろう。やはり、J SPORTSの根強い人気は高い。

これまではGCNやDAZNでしかやらないレースは、GCNやDAZNで見る選択肢しかなかったが、今後はGCNとJ SPORTSでやるレースは、見たい方を選ぶことができてしまう。完全に比較されてしまうわけだ。そして、これまでDAZNやGCNに対して、決してネガティブなスタンスで見てきたわけではない中間層は、J SPORTSとGCNの両者を比較するなら、J SPORTSをとる。ということで、多くのファンがJ SPORTSでの視聴を選択することが容易に予想できる。そうしたなかで、GCNはどんなJ SPORTSに対して、どのような価値を提供してくるのか、筆者には大きな興味があった。

そうして迎えた直接対決第1戦となったストラーデ・ビアンケ。J SPORTS側は並々ならぬ決意で制作陣・実況・解説陣が一体となって盛り上げていた印象を受けていたが、いつもどおりという雰囲気を感じていた。(実況の木下さんはいつも以上に猛烈な事前の下調べをしていたことが垣間見え、並々ならぬ意気込みを感じました。むしろ気合いが入りすぎて、直前の女子レースの実況にカットインするくらいでしたし笑 自分は木下さんのそういう前のめりな感じがとても好きで、木下さんの実況を聞くためにGCNに課金しているといっても過言ではなく、自分はGCNでストラーデ・ビアンケを見ました。)

案の定、GCNはシーズン序盤から再三繰り返されていた音声トラブルを再発。J SPORTSはスタジオ収録、GCNはリモート収録という機材面で圧倒的な差があり、そもそも価格面に大差がある(定価でGCNはJ SPORTSの5分の1程度の金額)だけに、放送のクオリティに差が生まれるのは当然だと思っている。

なので、音声にノイズがかかってる等の微小な問題は許容できる。しかし、そもそも中継が途切れる、音声が聞こえない、小さすぎる、など最低限の質を保たないと消費者は納得できないと思う。これまでもリモート収録で大半の回でうまくいってただけに、この大一番で音声トラブルを起こしまうのは、いただけない。この大一番にかけるGCN運営サイドの意気込みはそんな程度だったのかと心底がっかりさせられた。

このままでは今後もJ SPORTSの圧勝が続き、GCNの日本国内での展開が継続するのか心配したくなる。実際、DAZNやGCNの存在があったからこそ、日本のサイクルロードレース視聴環境は急激に向上したわけで、自分がGCNや過去のDAZNに期待していたことはJ SPORTSの対抗馬として、お互いが切磋琢磨して、ひいては日本のサイクルロードレースシーン全体のクオリティ向上につながることである。

放送局同士の仁義なき戦いの第2戦はティレーノ~アドリアティコだ。そして、ストラーデ・ビアンケやティレーノ~アドリアティコ以上に注目を集めるであろうジロ・デ・イタリアも5月に控えている。GCNに逆襲の一手はあるのか。サイクルロードレースシーズンはまだ始まったばかりだ。

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