パリ〜ニースで露呈した致命的な弱点。プリモシュ・ログリッチを救う策はあるのか?

2016年はゲラント・トーマスがアルベルト・コンタドールの猛攻を凌ぎ、4秒差で総合優勝。2017年はセルヒオ・エナオが同じくコンタドールに2秒差で総合優勝。2018年は最終第8ステージにマルク・ソレルがサイモン・イェーツを大逆転して4秒差で総合優勝。

2019年は第1〜3ステージが強風で大荒れのレースとなり、ミスなく乗り切ったエガン・ベルナルが初の総合優勝。2020年も序盤ステージで横風・冷雨に集団は苦しめられた末、新型コロナウイルスの流行に伴い打ち切られたレースをマクシミリアン・シャフマンが総合優勝。

スペクタクル・タフネス・ハプニング。別名を「太陽に向かうレース」と称すが、その明るいイメージとは裏腹にダークでカオスなレース。それがパリ〜ニースだ。

2021年は、絶対強者であるプリモシュ・ログリッチの独壇場といえる展開だった。例年のような強風や冷雨にさらされることなく、序盤ステージを終えると、14.4kmの個人タイムトライアルとなった第3ステージで、総合勢ではダントツの走りで区間3位。山頂フィニッシュとなった第4ステージでは、圧倒的なパワーを見せつけ、2位以下に12秒もの差をつけてステージ優勝を飾った。

さらに丘陵ステージの第6ステージでは、クリストフ・ラポルト、マイケル・マシューズといったスプリンター級のパワーの持ち主相手に真っ向勝負を制して区間2勝目。さらにさらにクイーンステージの第7ステージでは、登坂距離16.2kmのコルミアーヌ峠を最速で駆け上がり、無情にも逃げ切り勝利目前だったジーノ・マーダーをかわして3勝目を手にしたのだった。最終日を迎えて、前年王者のシャフマンに52秒差をつけており、独走状態を築いていた。

だが、ログリッチはこのレースを総合15位で終えることとなる。

直接の原因は2度の落車によるダメージだった。最終ステージのダウンヒル中に落車。左肩を脱臼し、左臀部があらわになるほどの擦過傷を負ったものの、レースが序盤であったことと、リーダージャージのトラブルを待つという集団の不文律も働き、チームメイトの助けも借りて集団復帰を果たしてレースを続行。2回目もダウンヒル中に落車。今度は右臀部に擦過傷を負ってしまう。しかも、落車の衝撃でチェーンが外れてしまい、再スタートに手間取っていた。とはいえ、マイヨジョーヌのトラブルだ。集団はログリッチを待つ・・・ことはなかった。

というのも、ステージ優勝と総合上位を巡る争いが始まっており、集団はアスタナ・プレミアテックとボーラ・ハンスグローエがペースを上げている最中だったからだ。

これも不文律の一つなのだが、どこかのチームが意図的にペースを上げている最中に発生したトラブルに関しては、たとえリーダージャージを着ている者であろうと、待つことはしない傾向にある。ログリッチは一気に窮地に立たされてしまった。

頼みの綱であるチームメイトのトニー・マルティンは第5ステージで落車リタイア。ヨス・ファンエムデン、レナード・ホフステッドも最終ステージですでにリタイアしていた。サム・オーメン、ジョージ・ベネット、そして総合8位につけていたステフェン・クライスヴァイクの3人を残すのみだった。

3人はログリッチを集団に引き上げようとしていたが、不幸にもログリッチが遅れた場所は向かい風の吹く谷間の下り坂と平坦路だ。クライマータイプのオーメン、ベネット、クライスヴァイクは必死のけん引を見せるものの、すぐに脱落。単騎となったログリッチの視界には、徐々に遠ざかる集団の後ろ姿が見えていたことだろう。

レースをやめてもおかしくなかったが、マイヨジョーヌを着る者として最後まで責務を果たし、3分8秒遅れでフィニッシュ地点に到達。総合15位でレースを終えたのだった。

という顛末を迎えたパリ〜ニースだったが、無敵に思えたログリッチの致命的な弱点があらわになった。ログリッチ本人の弱点というよりは、ツール総合を狙うであろうユンボ・ヴィスマの弱点だ。その弱点はログリッチが強すぎるが余り、生まれたものである。

一連の走りにおいて最も気になったことは、2回目の落車で遅れた際にクライスヴァイクが集団から下がってアシストに来たことだ。

クライスヴァイクはユンボ・ヴィスマ生え抜きのオランダ人総合エースとして、これまでいくつものレースでエースを担ってきた存在だ。ログリッチの成長、トム・デュムランの加入後もダブルエースやトリプルエースという形で起用されていた。

しかし、パリ〜ニースの山岳ステージではログリッチのためにペースメイクする場面が何度も見られていて、ログリッチ専用のアシストとして起用されているようにも見受けられた。ただ、使い切るようなアシストはさせず、クライスヴァイクは第7ステージ終了時点でトップから2分7秒差の総合8位につけていた。そうして第8ステージでログリッチに2回目の落車があった際、クライスヴァイクを引き戻して脚を使い切るようなアシストをさせてまで、手負いのログリッチを引き上げようとしたことに違和感を覚えた。

これまでのログリッチとクライスヴァイクの関係であれば、クライスヴァイクはログリッチのアシストをすることはあっても、セカンドエースとして総合成績も狙う立場にあったはずで、総合が絶望的になるようなアシストはしないはずだった。しかも1回目の落車でログリッチは肩を負傷してるわけで、2回目の落車に見舞われたログリッチを見捨てて、クライスヴァイクの総合狙いに切り替えたとしても不思議ではない状況だ。

これらの事象からわかることは、クライスヴァイクはもうダブルエースやセカンドエースという立場ではなく、ログリッチ専用の山岳アシストという立場に変わったということだ。第7ステージまでの山岳ステージで、クライスヴァイクを使い切らなかったのは、マルティンがリタイアしていることもあり、最終ステージでのアシストを見越してのことだろう。

ログリッチはあまりにも強くなりすぎた。だから、クライスヴァイクをダブルエースの一角、またはセカンドエースとして起用するよりも、ログリッチのアシストに専念させた方がログリッチの勝率は高まるという首脳陣の決断があったのだろう。その決断が間違いとは思わない。実際にユンボ・ヴィスマはプロトンで最強の山岳トレインを披露していたし、ログリッチはステージ3勝をあげ、2回の落車されなければ総合優勝していただろう。

そして、デュムランの休養もユンボ・ヴィスマにとって誤算の一つだっただろう。もし本来のコンディションを取り戻せていたならば、ログリッチとタメを張る存在だったに違いない。

ログリッチに依存する現状の布陣では、ログリッチの調子次第で戦績が左右され、パリ〜ニースのようにトラブルに見舞われると、それまでの努力が水疱に帰すことになってしまう。それにログリッチは落車が少なくない選手であり、ユンボ・ヴィスマはちょくちょくやらかすチームであるからなおさらだ。今後も単独エース体制の脆弱性を突く攻撃に悩まされることだろう。

そういったリスクを避けるためのダブルエース、セカンドエース戦略が昨今のサイクルロードレース界のトレンドになっているのだが、ログリッチが突出した実力を持つばかりにそれらの戦略を取りづらい状況になっているのだ。(今はまったく問題が顕在化してないが、同じことはタデイ・ポガチャルを擁するUAE・チームエミレーツにも言える)

この問題を解決するには、ログリッチに匹敵する実力を持つ、総合エースを担いうる選手の存在が必要だ。セップ・クス、トビアス・フォス、ハイス・レームライゼなど有望な若手に期待をすれば良いのか。

いや、もっと良い適任者がユンボ・ヴィスマにはいる。そう、イタリアの地で覚醒しつつある、あの男こそがログリッチとチームを救うキーマンとなるだろう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)