ティレーノ総合2位となったワウト・ファンアールトが持つ、7つの長所と1つの短所とは?

マチュー、ワウト、ジュリアン。
マチュー、タデイ、マチュー。
1日空けて、またワウト。

なにかの数え唄のような小気味の良いリズム感なのだが、単にストラーデ・ビアンケからティレーノ~アドリアティコまでの勝者を並べただけである。(ゴメンね、マッズ・ウルツシュミット…汗)

6人のグランツール総合優勝経験者が集いしティレーノ~アドリアティコだったが、筆者としては前週のストラーデ・ビアンケで覇権を争ったマチュー・ファンデルプール、ジュリアン・アラフィリップ、そしてワウト・ファンアールトの3人による直接対決の行方が気になるところだった。

初日はカレブ・ユアン、フェルナンド・ガビリア、ダヴィデ・バッレリーニといったトップスプリンターたちとの集団スプリントをワウトが制し、第2ステージはワウトとマチューとの上りスプリントをアラフィリップが制した。第3ステージは第2ステージよりは緩やかな上りスプリントでワウトを抑えたマチューの勝利。

登坂距離14.7kmの超級山岳山頂へとフィニッシュする第4ステージは、ポガチャルが制した。一方、マチューとアラフィリップが脱落するなか、ワウトは最後の最後までメイン集団内で耐え凌ぎ、区間9位となった。

第5ステージはマチューが爆発し、残り50km近くを独走して勝利。ただし、終盤は息切れ気味で猛追したポガチャルが11秒差の区間2位。ワウトは区間3位だった。

第6ステージは逃げ切りが決まり、ウルツシュミットが小集団スプリントを制した。そして、10.4kmの個人TTである第7ステージは、TT世界王者のフィリッポ・ガンナを11秒も上回ったワウトが勝利。

そうして、最終成績は区間2勝のワウトが1分3秒遅れの総合2位、区間2勝のマチューは20分57秒遅れで総合32位、区間1勝のアラフィリップは26分54秒遅れで総合41位という結果になった。

スプリント・丘陵・山岳・激坂・個人TTと全局面でトップレベルのパフォーマンスを見せ、歴代グランツール王者たちを上回り、現ツール王者と総合優勝の座を争ったワウトの走りが際立っているといえるだろう。

改めてワウトの凄さについて、語ってみたいと思う。

1、スプリント力が凄い

ユンボ・ヴィスマに移籍した2019年以降、ワウトはワールドツアーで10勝をあげた。そのうち6勝が集団スプリントでの勝利である。さらに、そのうち3勝は割とノーマルな展開の集団スプリントで、ピュアスプリンターたちと横並びの戦いを勝ち切っているのだ。

しかも、2019年ツール以外は総合エースのアシストの一角として起用されており、リードアウトの助けがほとんどないなかで自力で位置取りしながら勝利したのである。リザルトだけ見ると、位置取りで消耗しながらもピュアスプリンターに勝つスプリント力を持つ怪物スプリンターであるといえよう。

2、タイムトライアル力が凄い

2019年クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ第4ステージ、2021年ティレーノ~アドリアティコ第7ステージの個人TTで勝利。ベルギー選手権個人TTは2連覇中。2020年の世界選手権個人TTでは、ガンナに敗れはしたが2位。

いまや世界屈指のタイムトライアリストの一人であり、短時間高出力を保つ力においては世界ナンバー1・2を争う力の持ち主といえよう。

3、独走力が凄い

そもそも、独走力世界一決定戦ともいえるシクロクロスの舞台で、アルカンシェル3連覇を飾るなどの実績をもって、ロードレースに本格参戦してきた選手だ。

2020年のストラーデ・ビアンケでは、残り12km地点から独走に持ち込んで優勝した。

4、パンチ力が凄い

激坂の登坂力、ピュアスプリンターには厳しい上りでのスプリントなど、いわゆる「パンチのある上り」の場面を得意としている。

2020年のストラーデ・ビアンケでは、未舗装路の激坂区間でのアタックから独走に持ち込んでいる。

5、未舗装路・石畳に強い

こちらもシクロクロッサーの特徴の一つともいえるが、ワウトも未舗装路・石畳には滅法強い。

ストラーデ・ビアンケでは表彰台3回、2020年ロンド・ファン・フラーンデレンでは2位となっているように、北のクラシックへの適性を示している。

6、ダウンヒルが速い

これもシクロクロッサーによく見られる特徴の一つであるが、ダウンヒルが非常に速い。

その卓越したテクニックがあったからこそ、ミラノ〜サンレモではテクニカルなダウンヒルとして有名なポッジオの下りを飛ばして、アラフィリップに追いつくことができた。

7、上りに強い

短い上りとか、激坂とか、丘陵ステージの上り、とかではなく、ツール・ド・フランスのクイーンステージに登場するような長くて急な上りで、トップクライマーたちと互角の走りができるのだ。

2020年ツールでは、プリモシュ・ログリッチの山岳アシストとして、往年のチームスカイの山岳トレインを彷彿とさせるような支配的な走りを見せ、ライバルたちのアタックを許さない高速けん引を披露。

そして、自分自身が総合成績を狙うエースとして出場した今年のティレーノ~アドリアティコで総合2位となり、ステージレーサーとしての適性も示している。

以上がワウトの凄さの特徴である。

1〜7番までの特徴のうち、1〜6番までの特徴を持つ選手、2〜7番までの特徴を持つ選手は、過去にも今でも決して多くはないが存在している。

しかし、1番と7番の特徴を同時に持つ選手というのは、ほとんど見当たらない。それこそ、エディ・メルクスとか半世紀以上前の時代まで遡らないといけないだろう。

ピュアスプリンターに勝てるスプリント力と、トップクライマーに比肩する登坂力を持つ。それがワウトの最大の強みであろう。

そんなワウトにも1つだけ弱点がある。それは、やはり上りでの弱さである。

ワウトの上りでの走りの特徴は、徹底したペース走行である。逆に言うと、上りでアタックしてライバルを揺さぶるといった動きをすることができないのだ。

2020年ストラーデ・ビアンケでは、残り12km地点から独走に持ち込むときだけ、爆発力を見せた。同年ミラノ〜サンレモでアラフィリップが先行した際も、自分のペースで追いかけていき、最後のスプリントのときだけ、真の爆発力を発揮していた。

こうしてワウトの走りを振り返ってみると、凄まじい爆発力を発揮するのは1レースに1回だけ。じわっとペースを上げてライバルを振り切るような走りをすることはあっても、いきなりレッドゾーンに突入するようなペースの上げ下げはあまりしない、できないように見受けられる。

実際にワウトが独走で勝利したのは通算19勝のうち2回だけである。高い独走力を持っていることは間違いないが、独走に持ち込むためのペースの上げ下げ、断続的なアタックなどのアグレッシブな仕掛けが苦手ともいえる。

そのため、上り区間ではひたすらマイペースを貫き、ライバルがアタックを仕掛けても自分のペースを守って最小限のタイムロスに留めるようなディフェンシブな走りを強いられることとなるのだ。

ティレーノ~アドリアティコ第4・5ステージでは、タデイ・ポガチャルがこの弱点を徹底的に攻撃し、波状攻撃ともいえるアタックを繰り返して、ワウトから計1分以上のタイムを奪った。

今のワウトがステージレースで総合優勝するためには、タイムトライアルやスプリントのボーナスタイムで稼いだ時間を、山岳ステージで切り崩しながら守る方法しかないだろう。

となると、ポガチャルや好調時のサイモン・イェーツのようなアタックでライバルを崩していくようなタイプとの相性は最悪である。加えて、ライバルチームがダブルエース体制で、波状攻撃・前待ち作戦などやられると、もうワウトの脚質では全く太刀打ちできない。

そういった状況を打破するためには、もう1人ファンアールトに匹敵する実力者で、より攻撃的な存在が必要となる。

もうひとりの実力者がアタックを仕掛けた際、追走グループの抑え役としてワウトはこれ以上ない適任者になるだろうし、逆にもうひとりの実力者がライバルたちのマークを受けている隙に、ワウトはじわっとしたペースアップから独走に持ち込む作戦も可能となる。強力な相方の存在があって初めて、ステージレーサーとしてワウトは覚醒を遂げるのだ。

そう、フランスの地で苦杯を喫した、あの男こそがワウトの潜在能力を解き放つキーマンとなるのではないだろうか。

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