クラシックを彷彿とさせる、カデルレースで見えた集団駆け引きの妙とは?

4回目の開催にして、初めて地元オーストラリア人による勝利となったカデルエヴァンス・グレートオーシャン・ロードレース。

シーズン序盤の肩慣らしのレースではなく、クラシックレースさながらの見応えあるレース展開となった。

特にラスト10kmの攻防は必見の価値あり。今回は、テキストと画像を使って、ラスト10kmの駆け引きを解説していきたいと思う。

残り10.0km

ロットNL・ユンボがアシストを総動員でペースアップを図った。トム・レーゼル、マールテン・ワイナンツが先頭で牽引するものの、集団を分断するまでには至らなかった。しかし、エリア・ヴィヴィアーニやニキアス・アルントといった、ピュアスプリンターたちは集団の真ん中から後方へと追いやられていたようだった。

そして、ロットNL・ユンボ勢の背後にはピーター・ケニャック、ドリス・デヴェナインス、エステバン・チャベスら登坂力の高い選手が張り付いていた。

残り9.3km

ロットNL・ユンボの牽引終了を待たずして、ケニャックが一気に加速した。このペースアップは非常に強烈で、集団前方に位置していたクライマーやパンチャーしか反応することができなかった。ヴィヴィアーニやアルントら、スプリンター勢は取り残されることとなる。

残り9.0km

山頂の寸前で、ケニャックは仕事を終えた。そして、後方からダニエル・オスとダリル・インピーが自力で、ギリギリ先頭集団の後方に張り付いた。ルーベン・ゲレイロも山頂間近で失速してしまう。

また、デヴェナインスは後ろを振り返り、ヴィヴィアーニが遅れていることをしっかりと確認した。

残り8.6km

すかさず、オスが先頭に出て、牽引を開始。後ろの追走集団との差は、山頂通過直後は5秒程度だった。オスが素早く牽引開始したことで、後方集団の追撃体制が整う前に、リードを拡大することに成功した。

ここで各チームの思惑を整理したい。

先頭集団に残ったメンバーは、

ジェイ・マッカーシー、オス(ボーラ・ハンスグローエ)
チャベス、インピー(ミッチェルトン・スコット)
ロベルト・ヘーシンク、ジョージ・ベネット(ロットNL・ユンボ)
ピエール・ラトゥール(AG2Rラモンディアール)
サイモン・ゲランス(BMCレーシング)
デヴェナインス(クイックステップ・フロアーズ)

の9名だ。

まずスプリント力では、マッカーシー、インピー、ゲランスの3人が良い勝負で、他の選手はこの3人にスプリントでは勝ち目がないだろう。そして後方集団には、ヴィヴィアーニやアルントといった、マッカーシーたちを上回るスプリント力を持った選手が控えている。

ボーラ・ハンスグローエとしては、この9人で逃げ切って、マッカーシーでスプリント勝負に挑みたいところだ。そして、オスがマッカーシーの忠実なアシストとして立ち回ることが可能だ。

ミッチェルトン・スコットも同様にインピーで勝負できるため、このまま逃げ切りたい。しかし、相方のチャベスはクライマーだ。もし、誰かがアタックして逃げる展開になった場合、チャベスに任せきりでは追いつけない可能性もあった。

ヘーシンクとジョージ・ベネットを送り込んだロットNL・ユンボは、逃げ切ってもこの2人に勝ち目はない。しかし、トップ10圏内に2人送り込み、WTポイントを稼ぐことは可能だ。後方集団には、ヘーシンクとジョージ・ベネットよりもスプリント力の高いエンリーコ・バッタリンが控えているが、ヴィヴィアーニとアルントに勝てる保障はないため、9人で逃げ切りを狙う方がチームにとって得策だといえる状況だった。

ゲランスを送り込んだBMCレーシングも、逃げ切ってスプリント勝負に持ち込みたい。しかし、アシストがいないため、ゲランス自身が消耗する展開は避けねばならなかった。

デヴェナインスを送り込んだクイックステップ・フロアーズは、追走にヴィヴィアーニがいるため、先頭集団の逃げ切りは防ぎたいところだった。そのため、先頭集団のローテーションを妨害し、スムーズに逃さないことが第一の役割となった。

ラトゥールは、スプリントで勝つことは極めて難しいが、このまま逃げ切ってトップ10圏内には入りたいところだ。

つまり、

逃げ切り狙って先頭を牽ける選手:オス、チャベス、ヘーシンク、ジョージ・ベネット、ラトゥール
逃げ切りたいが消耗を避けるため先頭を牽かない選手:マッカーシー、インピー、ゲランス
逃げ切りを防ぎたいローテーションに協力しないor妨害したい:デヴェナインス

という構図となった。

先頭集団の推進力は、オス、チャベス、ヘーシンク、ジョージ・ベネット、ラトゥールの5人に対して、デヴェナインスがスムーズな逃げ切りを妨害する役割を担うこととなった。

一方で追走集団にいたメンバーは、最終リザルトから推測すると、

ヴィヴィアーニ、エロス・カペッキ(クイックステップ・フロアーズ)
アルント、サム・オーメン、マイケル・ストーラー(チーム・サンウェブ)
マウリス・ラメルティンク、ジョセ・ゴンサルベス(カチューシャ・アルペシン)
オウェイン・ドゥール、サルヴァトーレ・プッチョ(チームスカイ)
ラースユティング・バク、ビョルグ・ランブレヒト(ロット・スーダル)
クーン・デコルト、ルーベン・ゲレイロ(トレック・セガフレード)
ネイサン・アール(イスラエル・サイクリングアカデミー)
スティール・ヴォンホフ(オーストラリア代表チーム)

ミカエル・シェレル(AG2Rラモンディアール)
ケニャック(ボーラ・ハンスグローエ)
ワイナンツ、バッタリーン(ロットNL・ユンボ)
キャメロン・マイヤー(ミッチェルトン・スコット)

の20名と思われる。

このうち、先頭集団を捕まえたいチームで追走集団を牽ける選手、つまり追走集団の推進力は、
カペッキ、オーメン、ストーラー、プッチョ、ランブレヒト、ラメルティンクorゴンサルベス、ゲレイロorデコルトの7名となる。

しかし、先頭に選手を送り込んでいるチームの選手が5人残っており、バッタリーンを除く4人は追走集団のローテーションを妨害するなどの動きをとることができたはずだ。

妨害できる人数を推進力から差し引けば、先頭集団は5人-1人で4人、追走集団は7人-4人で3人となる。単純な人数の比較ではあるものの、20人残した追走集団が先頭を捉えることは決して簡単なことではなかったものと思われる。

残り6.5km

追走との差は10数秒ほど離れていた。大きく差を開くことはできず、また縮められることもない微妙なタイム差を維持しているようだった。

400mほどの短い上りに差し掛かると、ラトゥールがアタックを仕掛けた。スプリントでは勝ち目のないラトゥールが勝利するためには、この上りで差をつけて独走して逃げ切るしかないという最善の努力を尽くした。

しかし、ラトゥールの動きはオスがきっちりマークして封じ込めた。

残り4.4km

デヴェナインスが巧妙に立ち回り、スムーズなローテーションを妨げていた。このように、たびたびスペースが空く機会が増え、なるべく脚を使いたくないゲランスやインピーも、自ら差を詰めなければならないようなシーンが目立っていた。

ただ、同様の動きは後方の追走集団でも起きていただろう。先頭も追走も前を目指したいが、簡単には事が運ばなかったのだ。

それでも、ジョージ・ベネット、ヘーシンク、チャベスらが献身的に前を牽くことで、辛うじてスピードは保っていた。オスは、先頭集団後方で前を伺う時間が増えて、先頭牽引には加わる時間は減っていた。ここで脚を貯めたことが、後々活きてくる。

残り3.5km

お見合いになりペースダウンしそうな状況で、ジョージ・ベネットがアタックを仕掛けた。これもオスがチェック。ジョージ・ベネットはオスに先頭交代を要求するも、マッカーシーを勝たせるためにアシストしているオスはこれを拒否する。

残り2.8km

またもや、集団がお見合いしかけたところで、チャベスがするすると抜け出して独走状態に入る。チャベスを追うことで、インピー自身が脚を使わずに集団のペースアップを図るというミッチェルトン・スコットの戦術だ。

ここまで積極的に前を牽いていたロットNL・ユンボ勢とオスはすぐに対応しなかった。

ジョージ・ベネットは体力が尽き果てかけており、ヘーシンクは自ら勝負するために脚を使うことを嫌っていたと思われる。

オスは、チャベスの逃げであれば、数百mあれば捉えられる自信があったのだろう。あえて、チャベスを泳がすことで他のチームの選手に脚を使わせようという魂胆があったのだろう。なぜなら、チャベスを追うために集団の先頭で牽き始めた選手はデヴェナインスだったからだ。

デヴェナインスは後方集団のヴィヴィアーニを待ちたかったが、後方集団が先頭に追いつくことができるかどうかはまだわからない。だが、ここでチャベスに逃げ切られては意味がないので、やむを得ず自ら脚を使って集団を牽いていたのだ。

だが、デヴェナインスもチャベスを完全に捕まえることはしなかった。数m差まで距離を縮めると踏むのをやめて、チャベスを泳がしていた。完全に吸収した後のカウンターアタックを警戒していたものと思われる。

全開で逃げ続けるチャベスを泳がすことで、集団のスピードを保つという駆け引きがあったのだ。

残り1.5km

追走集団ではカペッキが牽引を開始した。持てる力を出し尽くして、前との差を一気に詰めにかかった。この献身的な牽きがなければ、ヴィヴィアーニは先頭集団に追いついていなかっただろう。カペッキのファインプレーだ。

残り1.0km

オスが先頭に立ちペースアップすると、残り600m地点でチャベスを吸収した。

残り400m

後方からゴンサルベスとバクが先頭に追いついてきた。ゴンサルベスは、追いついた勢いそのままに先頭に躍り出てフィニッシュを目指した。

付き位置にはマッカーシーが入り、インピーは出遅れてしまいスリップストリームの外に追いやられてしまった。

残り300m

早めのタイミングで、マッカーシーがスプリント体勢に入り、ゲランスとインピーも即座に反応した。そして、後方からはヴィヴィアーニがいよいよ先頭集団を捉えた。

フィニッシュ

マッカーシーのスプリントの伸びは素晴らしかった。ゲランスとインピーはマッカーシーの付き位置に入ることができず、前でスプリント開始したマッカーシーが先着する結果となった。

ギリギリで先頭集団を捉えたヴィヴィアーニの加速力も凄まじく、脚を溜めていたはずのゲランスとインピーをまくって2位に入った。

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各チームの思惑が入り混じった見応えある駆け引き

ケニャックの加速に始まり、オスの絶妙なアシスト、デヴェナインスの巧みな動き、チャベスの飛び出しとあえて泳がしたこと、鬼牽きしたカペッキ。様々な選手の卓越した判断と駆け引きが絡み合い、複雑な接戦を演出する結果となった。

マッカーシーの勝利に直結したケニャックとオスのアシストは特筆すべきものがある。とりわけオスの働きはMVP級だといっても過言ではない。

だが、負けはしたもののデヴェナインスの集団ローテーションを妨害する巧みな動きと、逃げたチャベスを追う判断力の高さも非常に素晴らしかった。

独走力に劣るチャベスが、単独逃げを試みることで集団をペースアップするという献身的な働きも高等戦術だったといえよう。

スプリント力に劣るヘーシンクとジョージ・ベネットがチームのために最善を尽くす立ち回りも見応えがあった。

映像にはほとんど映っていなかったものの、追走集団でもいろんな動きが起きていたことだろう。

リザルトを見れば、1位から24位までが同タイムで集団スプリントになったと思われるかもしれないが、リザルトには見えない各チームの思惑が入り混じり複雑な駆け引きの応酬は非常に見応えがあった。

Rendez-Vous sur le vélo…

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