ファビオ・アル失速の原因は、自身の契約問題にあるのか?

チームスカイのヴァシル・キリエンカはわずかな変化を見逃さなかった。
ファビオ・アルのボトル消費量が普段より多いことに気付いたのだ。
長年、プロトンでアシスト任務を遂行し、様々なチームからエースを守ってきたキリエンカだからこそ、ライバルチームのエースの異変をいち早く察知できたのかもしれない。

「アルは不調かもしれない。」
キリエンカが無線を通じてチームに伝達した。

ツールドフランス第14ステージは、ラスト570mの平均勾配9.6%に達する激坂が設置されていた。
激坂で集団が割れることは避けられない。
いかに前方に位置どりして、上り始めるかが大切だった。

ミカル・クウィアトコウスキーは、クリス・フルームを好位置に引き上げる役割を担っていた。
仕事を終えたクウィアトコウスキーはいつも通り、集団の後方へと下がっていこうとしたが、ふとキリエンカの指摘が頭をよぎった。

「アルはどこだ?」
少なくともフルームの近くにはアルはいなかった。
念のためアルの位置を確認してみたところ、中切れを起こした集団の後方にいることが分かった。

クウィアトコウスキーは即座に無線で「アルが遅れている!ペースを上げろ!」と伝えた。
フルームはミケル・ランダと共に、全開でペースを上げていった。

そうして、フルームは先頭から1秒遅れでフィニッシュした一方で、アルは25秒も遅れてしまった。
マイヨジョーヌは再びフルームの手に戻ったのだ。

少なくともアルの周囲には、アシストがいなかった

これらは、レース映像と海外メディアの情報を掛け合わせて想像して書いた。
本当のところ、アルがバッドデーだったかどうかは分からない。

ただ一つハッキリと言えることは、第11ステージでの集団落車の影響で、アルにとって重要なアシストになり得たダリオ・カタルドとヤコブ・フグルサングを失ったことはとてつもなく痛手だったということだ。

アスタナの選手のフィニッシュタイムを見ていると、アルのアシストが不足していたのは明らかだった。
1分14秒遅れのアンドレイ・ゼイツ、2分18秒遅れのミカル・ヴァルグレン、この2人は終盤までメイン集団にいたと思われる。

ゼイツの背後では、ニエベがフィニッシュしており、ヴァルグレンは残り1.4kmまで集団を牽いていたジャック・バウアーと共にフィニッシュしている。
次に早くフィニッシュしたアスタナの選手は、6分28秒遅れのアレクセイ・ルツェンコまで遡られねばならない。
ルツェンコは、サイモン・ゲシュケやトマ・ヴォクレールと共にフィニッシュしており、終盤の位置取りには参加できていなかっただろうし、第9ステージでの落車のダメージもまだまだ残っていることだろう。

つまり、最も重要な残り2kmから残り500mあたりでアルは、周囲にアシストがいなかったと思われる。
この日のアスタナは、全く集団牽引をしていなかったにもかかわらずだ。

アル自身も調子が悪く、終盤のスピードが上がるメイン集団内で、前方をキープし続けることは難しかったのだろう。
止むを得ず、ポジションを落としてしまったところで中切れが発生し、なす術なくフィニッシュ地点にたどり着いたのではないだろうか。

サンウェブとアスタナ、何が違うのか?

一方、チーム・サンウェブは、決して強くはないアシスト陣が、エースのポジション取りのために全力を尽くしていた。
ジロから連戦のローレンス・テンダムとサイモン・ゲシュケに全開で仕事をさせなくてはならない状況は異常だ。
それでも、チームの要求に期待以上の結果を残し、エースのために粉骨砕身働く姿は美しかった。
決して強くはないが、チームワークと結束力は抜群に高い。

ジロ・デ・イタリアでの、トム・デュムランに対するアシストの姿勢も全く同じだ。
明らかにオーバーワークをしながらも、デュムランのために一致団結して限界以上のアシストを見せていた。

対してアスタナはどうか。
ドーフィネでは、フグルサングとのコンビネーションが素晴らしかったが、ツール第5ステージでアルの方が総合タイムで上回った時点から立場が逆転したように見える。

第9ステージでのアルとフグルサングは、1ヶ月前に全く同じ場所で絶妙なコンビネーションを見せたとは思えないほど、ちぐはぐだった。
どちらも勝利できないどころか、ボーナスタイムも獲得できなかった。

第13ステージでは、早々にアスタナのアシスト陣は崩壊し、集団牽引は他のチームに任せっきりだった。
そのため、ランダ、キンタナ、コンタドールたちの逃げ切りを許してしまい、更に総合争いで不利に陥ってしまった。

そもそも、アスタナのアシスト陣は決して弱くない。
2015年ブエルタ逆転総合優勝を果たした時のメンバーも出場している。
なのに、どことなく涼しい風が吹いているかのような雰囲気を醸し出ている。
アスタナアシスト陣が奮わない理由は、フグルサングとカタルドがリタイアしたことによる人数不足だけが原因ではないように思えるのだ。

フグルサングはアスタナとの契約を延長し、アルはまだ来季の契約は未定となっている。
一部報道によれば、アルの要求する年俸が高すぎるため、折り合いがついていないと言われている。
更にUAE・チームエミレーツへの移籍話も噂になっている。
UAEは第13ステージでアルのためにアシストしていると見られる場面もあり、また元々イタリア系チームだったため、多くのイタリア人選手やスタッフがいる。
憶測でも、割と信憑性があるような筋の通っている話に思える。

来年はもういないかもしれないエースのために、果たしてチームは一致団結して身を粉にして働けるだろうか。
もっとストレートに言えば、良い契約を引き出したいと考えるエースのために働けるのだろうか?

アシスト選手は機械じゃない。
血の通った人間だ。
いくらビジネスと言えども、この人に尽くしたい!そう感情を掻き立てる要素は必要不可欠だ。

GMのアレクサンドル・ヴィノクロフは、アルのマイヨジョーヌ獲得を無邪気に喜んでいたが、それはアルがマイヨジョーヌを獲得したことに対してではなく、チームとしてスポンサーに顔向けできる成果を上げられたことに対する喜びだったのではないかと、今は思ってしまう。

アルは再びマイヨジョーヌを着ることができるのだろうか。
状況は厳しいと言わざるを得ない。

2015年ブエルタのようなチーム力を発揮するためにも、アルは一刻も早く契約問題を片付けるべきではないだろうか。
チームの結束力を高める方法は、もはや他には残されてはいないだろう。

Rendez-Vous sur le vélo…

7 COMMENTS

いちごう

普通に考えるなら、来年は来年。今年のエースはアルなのだからアシスト陣はアルのために仕事をするべきでしょう。

たとえアルとヴィノクロフとの間に確執めいたものがあったとしてもレースでは割り切らないといけないはずです。エースは勝つために走り、アシストはエースを勝たせるために走る。それがプロです。

もしもヴィノクロフからアシスト陣に対して「アルを助けるな」などという指示が出ているのなら、偉大なチャンピオンであった筈のヴィノクロフですが自分は軽蔑します。

色々ゴシップが出てきてますが、自分としてはあまりそこに目を向けてレースを観ないようにしています。

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サイバナ管理人

いちごうさん

全くもって仰る通りなんですが、アスタナとサンウェブを見ていると、あまりにも働きぶりが違うことに違和感を覚えたのでした。

ヴィノクロフがアシスト陣に「アルを助けるな」と言ってることは、100%無いと思っています。
大佐は、チームの成績が良ければ喜ぶはずなので笑

とはいえ、アシスト陣が仕事に集中できない何かしらの事情があるのかなと思い、
それはアルの契約問題に起因するのではないか?
という私見を述べてみました。

わたしもゴシップは気にしないようにしていますが、アスタナ本来の力を思うと、この状況は納得がいかないし、とにかくもったいない!という気持ちが強かったので、記事にしてみました。

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いちごう

サンウェブのアシスト陣はこの16ステージでも見事な仕事っぷりでエースのステージ優勝に繋げてみせました。

アスタナは、ここまでアルの孤軍奮闘ぶりが目立っていますね。
アルとチームとの契約問題はアシスト陣個々とは直接関係ないはずなんですが。。。もしかすると、アルとアシスト陣との間に何かあるのかな、とも考えてしまいます。

そして今ツールでもう1チーム気になるのが全く存在感が無いバーレーン・メリダ。
早々にエースを失い、目標がなくなってしまったのでしょうか。ソニー・コルブレッリでステージを狙うことはしてるようですが、今の所全く成績に結びついていません。
逃げにも居ない、登りで姿を見ない、スプリントは不発。
新城選手がインタビューで言ってたように「結果としては何にもしてない」。ここの噛み合わなさ加減はアスタナ以上かも知れませんね。
残り5ステージ、ワールドツアーチームの意地を見せて貰いたいところです。

そしてアスタナも、ちぐはぐさが解消されていけば総合争いがより面白くなると思います。

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ヤマカツ

アルにも契約問題があったんですね。
ニバリといいコンタドールといいアスタナは昔からエースとスポンサー・GM陣に確執がある気がします。
余計なところでエースに重圧かけるのはやめて欲しいですね。

UAEエミレーツとアルはしっくりきますね。フレームはコルナゴ、コンポはカンパだしチーム本籍はイタリアとくれば行くしかないんじゃないですかね?

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サイバナ管理人

ヤマカツさん

契約”問題”かどうかは、各種メディアの報道によるものなので事実かどうかは不明です。
ただ、仰るとおりアスタナの首脳陣と選手はなんだか揉めるような傾向があるので、あながち間違いではないとも思っています。
せっかくマイヨジョーヌが狙えるのに、チームのパフォーマンスが最大限発揮されていない状況は、見ていてもどかしいです。

アスタナに残留しても、フグルサングとのダブルエール問題は残るでしょうし、移籍するとなったらそれはそれでビッグニュースです。
果たしてどうなることやら。

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はしっこ

さすがにマイヨジョーヌを着ている状況でアシストするな、って指示が出ているわけはないでしょうが、契約問題を抱えるエースのために全身全霊をかけて働けるのか?というあさきねさんの指摘には同意しまう。
人間は理性だけでは動けない、どうしたって感情が絡む生き物ですからね・・・
だからこそ2012ブエルタでコンタドールの大逃げをアシストしたティラロンゴや、2015ジロでポートにタイヤを渡したクラークや、今年だと手負いのマイカを助けたクビアトコウスキーのような、理性だけでは全くするメリットのないドラマが見られるわけで面白いんですが。

あとものすごい穿った見方ですけど、ナイスガイとして慕われていそうなコンタドールやポートに比べて、2015年ジロや今ツールで総合リーダーのトラブルに乗じてアタックを仕掛けた「前科」が2度もあるアルはプロトンやチーム内でも人望が・・・なんて妄想もしてしまいます。
(実際どうなのかは全くわかりませんよ、念のため)

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サイバナ管理人

はしっこさん

> さすがにマイヨジョーヌを着ている状況でアシストするな、って指示が出ているわけはないでしょうが、契約問題を抱えるエースのために全身全霊をかけて働けるのか?というあさきねさんの指摘には同意しまう

アシストするな、という指示を出しているなら、ヴィノクロフ大佐のあの喜びようは無いと思っています。
契約問題も憶測で書いているところはありますが、そういったニュースも選手の耳には届いているはずなので影響が無いとは思えません。

> 「前科」が2度もあるアルはプロトンやチーム内でも人望が・・・なんて妄想もしてしまいます。
> (実際どうなのかは全くわかりませんよ、念のため)

わたしはサイクルロードレースは芸術鑑賞に似ていると思っていまして、見た人の解釈が全てでいいと思っています。
そう思ってレースを見るのもまた一興だというのが、わたしの考えです。

アスタナは、2015年ブエルタと2016年ジロとグランツール2連勝できるチームなので、チーム力で劣っているはずがないと思います。
私個人の意見としては、今のアスタナの状況はもったいない、もどかしい。ということに尽きますね。
最終週、アスタナはチームスカイやAG2Rにどう対抗するのか、注目して見たいと思います。

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