タイムトライアルで37秒失ったフルーム 逆転への布石と第3勢力の逆襲とは?

ジロ・デ・イタリア第1ステージは、イスラエル・エルサレムで行われる個人タイムトライアルで開幕した。

レース前半にスタートしたローハン・デニスが長らくトップタイムを維持したものの、前年度王者・TT世界王者にして最終走者のトム・デュムランが2秒タイムを更新してステージ優勝を飾った。連覇に向けて幸先の良いスタートとなった。

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一方、もう一人の注目選手であるクリス・フルームは、レース前の試走の段階で落車。膝・腰・背中に擦過傷を負ってしまい、本戦でもいつもの安定した走りは鳴りを潜め、デュムランから37秒遅れのステージ21位に沈んだ。

デュムランとフルームの個人TT対戦成績

デュムランとフルームが同じTTを走った時の成績を比較してみよう。

・2018年

ジロ・デ・イタリア第1ステージ(9.7km):デュムラン1位、フルーム21位(+37秒)

・2017年

世界選手権(31km):デュムラン1位、フルーム3位(+1分21秒)

・2016年

ツール・ド・フランス第13ステージ(37.5km):デュムラン1位、フルーム2位(+1分3秒)
ツール・ド・フランス第18ステージ(17km):デュムラン2位(+21秒)、フルーム1位
ツール・ド・ロマンディ第3ステージ(15.1km):デュムラン2位(+2秒)、フルーム4位(+9秒)

・2015年
ツール・ド・フランス第1ステージ(13.8km):デュムラン4位(+8秒)、フルーム39位(+50秒)

・2013年
ツール・ド・フランス第11ステージ(33km):デュムラン9位(+1分45秒)、フルーム2位(+12秒)
ツール・ド・フランス第17ステージ(32km):デュムラン59位(+4分52秒)、フルーム1位
ツール・ド・ロマンディ プロローグ(7.45km):デュムラン23位(+33秒)、フルーム1位
ツール・ド・ロマンディ第5ステージ(18.6km):デュムラン37位(+1分33秒)、フルーム3位(+34秒)
ティレーノ~アドリアティコ第7ステージ(9.2km):デュムラン11位(+24秒)、フルーム6位(+15秒)

ということで、デュムランの4勝6敗ではあるが、デュムランがプロ2年目の23歳だった年を除けば、4勝1敗と大きく勝ち越している。

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つまり、フルームがデュムランからタイムを奪える可能性は少ないということだ。

むしろ2016年ツール第13ステージや2017年世界選のコースは上りを含んでいたとはいえ、30km以上のコースでは1分以上デュムランからタイムを失っていることになる。

今年のジロ第16ステージは概ね平坦の34.2kmとなっており、直近の対戦成績を見る限りはフルームは再び1分以上タイムを失うのではないかと思われる。

フルームの勝ちパターンはTTでリードを築くこと

グランツールでこれまで5回総合優勝しているフルームの総合成績とTTでライバルから稼いだタイム差を比較してみる。

・2013年ツール・ド・フランス

総合2位:ナイロ・キンタナ(+4分20秒)
第11ステージ:+3分16秒(フルームから)
第17ステージ:+1分11秒

差し引き:+3秒

・2015年ツール・ド・フランス

総合2位:キンタナ(+1分12秒)
第1ステージ:+11秒
第9ステージ(TTT):+3秒

差し引き:+58秒

・2016年ツール・ド・フランス

総合2位:キンタナ(+4分5秒)
第13ステージ:+2分5秒
第18ステージ:+1分10秒

差し引き:+50秒

・2017年ツール・ド・フランス

総合2位:リゴベルト・ウラン(+54秒)
総合3位:ロマン・バルデ(+2分20秒)

第1ステージ:ウラン(+51秒)、バルデ(+39秒)
第20ステージ:ウラン(+25秒)、バルデ(+1分57秒)

差し引き:ウラン(-22秒)、バルデ(-16秒)

・2017年ブエルタ・ア・エスパーニャ

総合2位:ヴィンチェンツォ・ニーバリ(+2分15秒)

第1ステージ(TTT):+22秒
第16ステージ:+57秒

差し引き:+56秒

ということで、フルームは個人TTないしチームTTで稼いだタイムがなかったとしたら、すべてタイム差1分以内の接戦もしくは、2017年ツールに至ってはウランとバルデに負けていたことになる。

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いかに、TTで稼ぐタイムを前提に戦略を立てているかということがわかるだろう。

デュムラン相手にはTTでタイムを稼ぐ戦いが通用しない

しかし、今回のジロではデュムランが立ちはだかる。

TTでタイムを稼ぐどころか、むしろ失う可能性さえある分の悪い戦いとなる。

フルームが総合優勝するためにはデュムランに対して山岳ステージで攻める必要が出てくる。

一方、守る側となるデュムラン擁するチームサンウェブは、チームスカイほどのチーム力はない。

クライマーのサム・オーメンの存在が頼もしいものの、圧倒的戦力を誇るチームスカイの波状攻撃を1人で抑えるのはさすがに厳しいだろう。

山岳ステージでフルームがデュムランからタイムを奪うことは、たやすくはないが決して不可能なことではない。

したがって、フルームにとって第1ステージで失った37秒は小さくはないが許容範囲ではないかと思う。

2015年ツールの第1ステージでも、大きく出遅れていたので、後半戦に向けて徐々に上げていくのも予定通りではないだろうか。

デュムランがTTに強いことはあらかじめわかっていたことであり、山岳ステージでデュムランからタイムを奪うための戦略も用意されているに違いない。

唯一の誤算ともいえる落車による擦過傷の影響だけが懸念点だ。

デュムラン、フルームではない第3勢力にも勝機はある

ここまでデュムランとフルームばかりに注目していたが、総合勢のタイムをチェックしてみよう。

目を引くのはサイモン・イェーツが20秒遅れと好タイムにまとめてきたことだ。

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ミッチェルトン・スコットには、サイモンだけでなくエステバン・チャベスも控えており、ダブルエースが山岳ステージで積極的な攻勢に出てくることが予想される。

そして、ミゲルアンヘル・ロペスは56秒と大きく出遅れた。しかし、元々TTに弱点を抱えている選手なうえに、フルームと同じく試走で落車した影響もあったことだろう。

何よりアスタナのチーム力の高さはチームスカイに引けをとらない。ルイスレオン・サンチェス、ペリョ・ビルバロ、ヤン・ヒルト、アレクセイ・ルツェンコら強力な布陣で猛烈な攻撃を仕掛ける準備はある。

デュムランのチームサンウェブ、フルームのチームスカイが直接やりあう展開のなかで、両者が弱った隙を突いてミッチェルトン・スコットとアスタナが仕掛けてくる可能性もある。

ティボー・ピノ、ファビオ・アルだって黙ってないだろう。伏兵ジョージ・ベネット、マイケル・ウッズも虎視眈々と上位を狙ってくるだろうし、ダヴィデ・フォルモロやドメニコ・ポッツォヴィーヴォもジロとの相性はとても良い。

第3勢力と呼ぶことが失礼なくらい強力な選手たちがたくさんいるのだ。

勝負はまだ始まったばかり。

次に総合が動くと思われる第4ステージでの有力選手の動向を注視したい。

Rendez-Vous sur le vélo…

12 COMMENTS

こーいち

データ見ると面白いですね!

これまでのフルームは山岳でも力を見せてると思ってましたが、タイム的にはほぼTTだけで稼いでたんですね。山岳でリードした印象もあったのでちょっと意外でした。

一方のデュムラン。やはりTTスペシャリストだけあって、山岳は耐えてTTで突き放す戦略ははっきりしてきます。ぶっちゃけ、山岳能力はフルームの方が上という印象。チーム力の差も含めて、長い山岳ステージでは早々にサンウェブのアシスト陣が崩壊させられるパターンは前回同様になりそうです。
昨年までより1人少ない構成は、チーム力の低いところほど厳しいと思うので、またテンダムの限界突破の奮闘に期待するしかないのかな〜。と。
フルームは落車してしまいましたが、モチベーションさえ失ってなければ巻き返せると思ってます。
山岳能力はデュムランより上だと思いますし、チーム力もまた上回ってます。
個人的にはフルーム有利。デュムランはこの初日で得たリードを山岳で食いつぶしながらどこまで耐えるか、になると予想します。

2強意外ではポッツォヴィーヴォに期待します。ピュアクライマーの彼が、意外とTTで良かったのでもしかすると、、、。地味な選手(失礼!)ですが、以前からジロでは「気付いたら上位にいる」感じ。そろそろ円熟期、総合争いに割って入っても良いかと。

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こーいちさん

データは客観的に物事を教えてくれるので、また違った印象を生み出してくれます。

> これまでのフルームは山岳でも力を見せてると思ってましたが、タイム的にはほぼTTだけで稼いでたんですね。山岳でリードした印象もあったのでちょっと意外でした。

とはいえ、差し引き後の1分弱のリードは主に山岳で稼いでいるわけですから、山岳に強い選手であることに疑いはありませんね。

ですから、仰る通りTTではデュムラン有利、山岳ではフルーム有利という見方ができると思いますが、果たしてどうなることやら!
山岳ステージが楽しみです。

> 2強意外ではポッツォヴィーヴォに期待します。

ポッツォヴィーヴォは初の表彰台に向けてモチベーションも相当高そうです。
シウトソウがDNSだったのは非常に痛手ですが、元々単騎でどうにかしてきたタイプなので十分に戦ってくれるのではないかと期待できそうです(^^)

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はしっこ

アルやロペスといったクライマーにはいつも通りタイムを稼いでいるとも言えますね。
クライマー系でフルーム相手にタイムを稼いだイェーツやポッツォヴィーヴォがどういう走りをするかですね。
あとはデュムラン・デニスといったTTS系の選手がどれだけ登れるか・・・
デュムランは冬に厳しいトレーニングを積んだとのことなので去年以上のクライム能力を見せても驚きません。

ちょっと気になるのが、シウトソウが頚椎骨折でリタイアとの情報・・・
鎖骨ではなく頚椎の骨折となると、選手生命どころか今後の人生にも多大な影響を与えかねないので心配です。

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はしっこさん

37秒遅れといっても、クライマーからリードを稼いでいるからこそ、許容範囲だったのではないかと思います。

> あとはデュムラン・デニスといったTTS系の選手がどれだけ登れるか・・・

デュムランは相当手強い相手でしょう。デニスは未知数すぎて読めませんね。2015年ブエルタのデュムランの再現になったら、ますます混戦を極めそうです笑

シウトソウの続報はあまり聞いていませんが、大事に至っていないことを祈るばかりです…。

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アディ

ショートTTなのでローハン・デニスらに続く3位辺りと予想していたデュムラン、フルームは5番手辺りの予想でしたが、思った以上にデュムランが速かったですね!
恐らくアシストの消耗を避けるためにマリアローザは早めに手放すとは思いますが、早速面白い展開になってきました!
仰る通り、ジョージ・ベネットあたりもさらに上位に来そうで楽しみです

楽しみといえば…気が早いですがTOJに関しても良いニュースが聞けそうです(^^)

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アディさん

自分も10km前後のTTは、圧倒的にデニスに分があると思っていたので、デュムラン1位は意外といえば意外でした。

早速翌日には、デニスにマリアローザを譲りましたね〜。
デニスも総合優勝を狙っているといっているので、油断ならない相手とは思います。
山岳ステージが楽しみですね!

TOJの良いニュースとは何でしょうか?
わたしも今年はいなべに観戦しに行くことを決めました!
当日、お時間があえば色々教えて下さい!

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アディ

TOJの良いニュースは出場メンバーに関してです(^^)
当日は天気が良ければ自走で、天気が悪ければ車で、8時には出走サイン&選手待機場所の阿下喜温泉駐車場に到着している予定です
その後9時のスタートを見届けてからメイン会場の梅林公園に向かい、KOMポイントを見たりしながらゴールまで滞在する予定です
私はTwitterやFacebookはやっていないので、今回のコメント時にメールアドレスを入れておきました(^^)

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アディさん

出場メンバー、一部発表されましたね!
ユキヤが来るのはもちろん楽しみですが、カノラも来るみらいですね〜!

自分は、スタート地点は行けなそうなので、メイン会場付近をうろうろするつもりです。
後ほど、メールもさせていただきますね!

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匿名

あきさねさん、初めまして。
去年のキンタナとデュムランを比べると、TTなければ、キンタナが大体4分先着。
キンタナを物差しにすると、TTなしで、フルームがデュムランの5分前にいるっていう概算になりますね。
これはデュムラン、トイレタイムなしでもきつそうですね。

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どうも!はじめまして(^^)

デュムランこそ、完全に個人TTで勝っている選手ですからね。
その計算を元にすれば、現状の1分差は十分いけそうに思えますね。
さすがのデュムランもフルームに4分差をつけるのは厳しいでしょうしね。

とはいえ、一体どうなることやら。色々書きましたけど、実際には本当に展開が読めません!

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ヤギ

私はフルームは10位にも入れないと予想します。
最悪途中危険もあるのではないかと。
一番の理由はやはり、例年のように薬を飲めないというもの。この事実を抜きにして今回のジロは語れないでしょう。
そして、グランツール3連戦。ブエルタから間が空いているとはいえ、いつもツールだけに万全の状態で出場するフルームの今までのデータは何もあてにならないでしょう。
アシスト陣は、ポエルスとキリエンカが今シーズンいまいち調子が良くない。
二人とも勤続疲労でしょうか。
現在のスカイで一番強い選手は、私見ではクビアトコフスキーですが、彼が出ていない。そしてやはりミケルランダの抜けた穴は果てしなく大きいと思います。

私の予想ではドゥムランの圧勝。
ドゥムランの強みは、去年あれだけキンタナにアタックをかけられても、関係なしにマイペース走法で走っていて、ゴールしてみればそれほどタイム差は開けられていない、というもの。
ドゥムランのマイペースをどれだけ崩せるかが、他の選手の付け入る隙だと思います。

ドゥムランのライバルとなる選手は、アル、ピノー、ポッツォビーヴォ、ミゲルアンヘルロペス、だと思いますが、彼らがアタックをかけてもドゥムランはマイペース走法を続けるだけ。つけられた差はタイムトライアルで取り戻せる相手ばかり。

ドゥムランのマイペースを崩すには、タイムトライアルもクライムも速い選手がアタックをかける必要がある。
それも、アシスト陣を引き連れて。
それができる可能性のあるのが、フルームと思っていましたが、ここまでの戦いを見ている限り、やはりフルームは調子は良くない、アシストもバラバラ。
フルームの自転車の乗り方を見ているといつもより体が立っていますね。もっと体を寝かせて漕いでいたと思いますが、やはり何かいつもと違うのでしょう。

サイモンイェーツが面白い存在ですが、グランツールの経験がなさすぎるし、やはり難しいのではないかと思います。
(ただ、サイモンイェーツは何年か後にはグランツールを制する器とは思っています)

ピノーがクライマー扱いされて(私はパンチャーだと思うのですが)いつも気の毒だったのですが、彼が今年どのように体を作り変えて来たのかが気になるところです。
彼がよりクライマー寄りに鍛えて来たのなら、面白い存在になると思います。

何にしても、ドゥムランを脅かす存在と、チームがいない。
去年のブエルタでフルームを脅かす存在がいないのと同じような形かなあ、と思っています。

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ヤギさん

フルームは調子よくなさそうですね…。
自分も早退してツールに備えてもいいと思っていますが、フルームやチームスカイとしても、ジロで負荷を与えてツールに向けて仕上げていくという方針なので最後まで走るようですが。

> 一番の理由はやはり、例年のように薬を飲めないというもの。この事実を抜きにして今回のジロは語れないでしょう。

今のところ、去年のブエルタのように咳き込むフルームの姿は見られないので、今回の不調の原因とは関係ないようにも思えます。

とはいえ、今後喘息の症状が出た時はどうするんでしょうね?ご指摘のとおり、ルール内とはいえなかなか薬に頼ることは難しいようにも思えます。

> 私の予想ではドゥムランの圧勝。

サイモン・イェーツが絶好調とはいえ、1分以内にいる限りデュムランがTTで余裕で逆転できる範囲なので、まだまだデュムラン有利といった感じはします。

経験のないゾンコランでのサイモンの走りが鍵を握るのではないかと予想しています。

> 彼がよりクライマー寄りに鍛えて来たのなら、面白い存在になると思います。

ピノはかなり上れる身体に仕上げているように見受けられるので、ダークホースとして期待を寄せています。
サイモンやデュムランがやり合っている間隙を突いて、ピノが抜け出すような展開になればひょっとして…と期待しながら見たいなと思っています!

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