ヒルクライム能力を向上させたマイケル・マシューズの野望とは?

世界最古のワンデークラシック、『ラ・ドワイエンヌ』ことリエージュ〜バストーニュ〜リエージュのスタート地点では、急逝したミケーレ・スカルポーニのために黙祷が捧げられた。

チームメイトであったアスタナが最前列に並ぶ中、選手たちはみなうつむきながら、亡きスカルポーニに思いを馳せていた。

アスタナはレース出場を取りやめるとの報道もあったそうだ。
しかし、いつも皆に笑顔を振りまいていたスカルポーニを想うならば、自粛して悲しみに暮れることではなく、ファンのために走ることだろう。
気持ちの整理が出来ているはずがないが、それでもアスタナはレース出場を決めた。

黙祷中、チームのエースであるヤコブ・フグルサングは号泣していた。
今シーズンは、ヴィンチェンツォ・ニーバリ移籍の穴を埋めるために、グランツールで総合エースを担う予定だったが、昨年まではスカルポーニと同じく、ニーバリやファビオ・アルの山岳アシストを務めていた。

長い時間、寝食を共にし、またプロサイクリストの技術や心構えなど、多くのことをスカルポーニにから学んだことだろう。
フグルサングの心中察するところがある。

それでも、レースは始まるし、これからも続いていく。
気持ちの整理をつけながら、結果を出していかねばならない。

第103回リエージュ〜バストーニュ〜リエージュは、異様な雰囲気のなかで号砲が鳴らされた。

スカルポーニを追悼するかのような、落ち着いた展開

レース展開は非常に落ち着いたものとなった。

8名の逃げはあっさりと容認され、最大10分以上のタイム差を築いて逃げていく。

中盤の勝負どころと見られていた、新しい登り3連発のゾーンでも集団は落ち着いて通過。
残り60kmで、逃げとのタイム差はまだ6分ある。

終盤になるにつれて、ようやく本格的なアタックがかけられ始めるが、集団を破壊するような決定的な動きには繋がらない。

キャノンデール・ドラパックのダビド・フォルモロが単独でエスケープを成功させ、集団から10秒程度のリードを築くことには成功したが、
メイン集団はリエージュ〜バストーニュ〜リエージュの終盤とは思えないほどの大人数を抱えたまま最後の登りへと突入した。

登りの麓でアタックを仕掛けたのはダン・マーティン。
凄まじい加速で、集団を一気に置き去りにして、逃げるフォルモロをも抜き去る。

集団はお見合いとなったようで、ダン・マーティンのアタックは決まったかと思われていた。
大本命アレハンドロ・バルベルデは落ち着いていた。

集団内の牽制など見向きもせず、自分のペースで加速を始める。
今シーズン、あまりにも好調のバルベルデの加速は、もはや凶器だった。
集団の選手たちは、誰も食らいつくことが出来ない。

気付けば、ダン・マーティンを捉え、スプリントを開始すると、ダン・マーティンはなす術もなく敗れた。

バルベルデは通算4度目の栄冠に輝いた。

バルベルデはスカルポーニの1学年下の年齢。
レース前のインタビューでは、『今日、勝利出来たら賞金は全てスカルポーニの家族に寄付する』と宣言しており、見事な有言実行となった。

レース後のインタビューでも、『ミケーレが背中を押してくれた』と涙ながらに話していた。

4位に入賞したマシューズ

感動的なレースではあったが、レース展開はとても落ち着いており、ラスト1kmで決まった節も否めない。

だが、クライマー向きのレースで、名だたるクライマーを抑えて4位に入賞した選手の存在が気になった。

ようやく、今日の本題。
マイケル・マシューズの話をしよう。

オーストラリア人であるマシューズは、オーストラリアのチームであるオリカ・スコットを離れ、今シーズンからサンウェブに移籍をする。
オリカのチーム力は高く、マシューズにとって大きな決断だった。

移籍を決断した理由は、自身の夢であるツール・ド・フランスでのマイヨ・ヴェール獲得のためだ。

オリカでは、総合エースのエステバン・チャベス、イェーツ兄弟がいる上に、タイプが被るサイモン・ゲランスの存在があり、思い通りに走ることは難しかった。

『F1で言えば、ルイス・ハミルトンとニコ・ロズベルグのようなものさ』
とは、マシューズの言葉。

ハミルトンとロズベルグは同じチーム内で、激しくチャンピオン争いをした結果、チームメイト同士で何度もクラッシュするシーンが見られるほど、対立が激化していた。

マシューズとゲランスが、そのように表立って対立しているようには見えないが、もしかしたら裏ではかなりきな臭い覇権争いがあったのかもしれない。

そして、サンウェブにとっては、チームのエーススプリンターであったジョン・デゲンコルプがトレック・セガフレードへの移籍を決めていた。

オリカでは自分の居場所を確保しにくいが、サンウェブなら居場所を確保出来る。
マイヨ・ヴェールという夢のために、オーストラリアチームを離れる決断をしたわけだ。

サガンという強烈なライバルの存在

マイヨ・ヴェールを狙う上で、最大の障壁となるのが、現在マイヨ・ヴェール5連覇中のペーター・サガンの存在だ。

マシューズとサガンは同い年。
つまり、この先何年にも渡って、サガンはマシューズの前に立ちはだかるわけだ。
サガンという強大なライバルを倒さない限り、マシューズがマイヨ・ヴェールを獲得することはない。

サガンの強さは、スプリントステージで安定して上位に入賞するだけでなく、山岳ステージでもスプリントポイントを稼ぐことが出来る登坂力も合わせ持っていることだ。

そこで、マシューズも登坂力に磨きをかけることにした。

むろん、以前からマシューズの登坂力には定評があった。
クライマー向けのレースと言われるアムステルゴールドレースでは、3位表彰台を獲得したこともある。

今シーズンは、その登坂力により磨きがかかっているようだ。

今季初戦となったパリ〜ニースでは、クイーンステージで本格的な山岳バトルが始まっても先頭集団に喰らいつく走りを見せていた。

ヘント〜ウェヴェルヘムでは8位。

ブエルタ・ア・パイス・バスコ第4ステージでは、残り14km地点に登場した2級山岳をスプリンターで唯一先頭集団で生き残りステージ2位となる。(ステージ優勝は独走逃げ切りを決めたプリモシュ・ログリッチ)

ブラバンツ・ペイル11位、アムステルゴールドレース10位と、終盤までレースに絡む活躍を見せている。

激坂への対応も出来るし、石畳もOK。
ステージレースの長い登りもこなせて、極めつけが今回のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュだ。

鍛え上げた登坂力と、持ち前のスプリント力を活かして、サガンに真っ向勝負を挑む。

ツール・ド・フランス最終日、パリ・シャンゼリゼでグリーンジャージを着ているのはサガンか、マシューズか、はたまた…。

サンウェブで居場所を掴んだマシューズのさらなる飛躍に期待したい。

Rendez-Vous sur le vélo…

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)