サンウェブアシスト通信ツール特別号〜託された想いに応えるエース〜

マイケル・マシューズという男ほど、主人公感の強い選手はいないだろう。

ペーター・サガンも、圧倒的な強さ、スーパースターとしての振る舞い、常にファンを楽しませる姿勢から強い主人公感を抱く。
マルセル・キッテルも、誰も寄せ付けない強烈なスプリント力に加えて、爽やかすぎるフェイスを見れば、この男が主役だと誰もが理解できることだろう。

サガンもキッテルも、凄まじい個の力が際立っている。
だが、マシューズを見ていると、もちろん個の力も素晴らしいが、それ以上にマシューズを支えるアシストたちの存在が、より一層マシューズの主人公感を引き立てているように見えるのだ。

ゆえに、ジロ・デ・イタリアでトム・デュムラン総合優勝を支えたチーム・サンウェブのアシスト陣にフォーカスした『サンウェブアシスト通信』のツール・ド・フランス特別号を書きたくなった。

激坂スプリントを制した第14ステージ

サンウェブアシスト陣の中で重要な役割を持った選手は、ジロからの連戦となっているローレンス・テンダムとサイモン・ゲシュケだ。
2人とも登坂力・平坦巡航能力どちらも優れ、全局面でエースをサポートすることができる選手だ。

そして、スプリンターのマシューズの発射台となるニキアス・アルントの存在も重要だ。

この3名の活躍が際立っていたのが、第14ステージだった。

マイヨヴェールを着るキッテルとのポイント差は100ポイント以上あった。
ここから逆転するのは非常に厳しいと言わざるを得ない。
それでも、チームは全力をあげてマイヨヴェールの奪還を狙っていた。

終盤の上りで集団から遅れたキッテルを突き放すべく、そして逃げ続けていたトーマス・デヘントを捕まえるべくテンダムや山岳賞ジャージを着用するワレン・バルギルが中心となってメイン集団を率いていた。
狙い通り、キッテルに対しては集団復帰が不可能なほどのタイム差がついた。
デヘントを吸収する頃には、テンダムは力尽きて仕事を終えていた。

すると、逃げ切りを狙ったカウンターアタックを試みる選手も現れる。
特にカチューシャ・アルペシンのトニ・マルティン、マウリス・ラメルティンクのアタックは強烈だった。
メイン集団はゲシュケが牽引する一方で、ラメルティンクのアタックはアルントがチェックに入った。

ゲシュケも追走に力を使い果たして、力尽きる。
マシューズの周りにはアシストが誰もいなくなってしまったように見えた。

最後まで抵抗していたラメルティンクが吸収されると、逃げをチェックしていたアルントが、力を振り絞ってマシューズのためにポジション取りのアシストをする。
残り1kmを切って、マシューズのポジションは5番手。
絶好の位置で、激坂区間へ突入することができた。

あとは、マシューズのスプリント勝負だった。
アルデンヌの王であるフィリップ・ジルベール、リオ五輪金メダリストのフレフ・ヴァンアーヴェルマートら、強力なライバルたちも好位置でスプリントを開始したが、チームメイトの献身的な働きに応えるべく、マシューズのスピードは一段階上回っていた。

最後はヴァンアーヴェルマートを、2車身近く突き放す圧勝だった。
30ポイントを獲得したとはいえ、キッテルとのポイント差はまだ99ポイントもあった。

100kmのチームTTを決行したサンウェブ

第15ステージでは、1級山岳と3級山岳を越えた先にある中間スプリントを獲るために、テンダムとゲシュケとバルギルと共にマシューズは逃げに乗った。
ここでも、着実に中間スプリントポイントを1位通過を果たし、キッテルとのポイント差は79ポイントとなった。

第16ステージは、レース序盤から始まる3級山岳で再びキッテルが遅れたことを知るやいなや、チーム総動員で集団牽引を開始する。
3級山岳で千切れかけたアシストも必死で集団復帰を果たし、全員でローテーションしながらキッテルとのタイム差を開いていった。

サンウェブは100km走っても、まだチーム全員が集団に残って仕事をしていた。

全てはエースであるマシューズのため。
サンウェブの結束力は並々ならぬものがあった。

横風区間が始まるとチームスカイがペースアップを図る。
すると、1日中仕事をしていたサンウェブのアシスト陣は遅れだしてしまう。
アルバート・ティマー、ラモン・シンケルダム、ミケ・テューニッセン、テンダム、ゲシュケと次々と千切られていった。
アシストをごっそり失ったマシューズは、集団内で孤立してしまう。
横風区間で肝心のエースが遅れてしまっては、今日のサンウェブの仕事は全く意味が無くなってしまう。

非常事態だったが、ここで奮起した男はまたしてもアルントだった。
身長188cmの巨大な身体を活かして、マシューズの風よけとなった。

有力選手が取り残された小集団を尻目に、スカイの牽く先頭集団内でポジションを保った。

先頭集団内には、バルギルも残ることができていた。
残り2kmを切ると、集団からダニエーレ・ベンナーティがアタックを仕掛けた。
強風を物ともしないベンナーティの攻撃は非常に危険だった。

追走せねばならないが、ここでリードアウト役のアルントを使うわけにはいかない。
そこでマイヨアポワを着るバルギルが立ち上がった。
決して平坦での独走力が高いわけではない上に、総合成績のジャンプアップも狙えるなか、マシューズのために必死にベンナーティの追走を試みた。

バルギルの献身的な牽きによって、ベンナーティとの差を詰めた。
しかし、吸収には至らない。

ベンナーティが数秒のリードを保ったまま、残り1kmのアーチをくぐり抜ける。
集団では、最終スプリントに向けた位置取り争いも行われていた。

中盤の100kmにわたる集団牽引、横風区間での護衛と、消耗していないはずがないアルントが、マシューズを引き上げて集団の2番手につけていた。
集団先頭を牽いていたディメンションデータのヤコ・ヴェンターが仕事を終えると、アルントが一気に加速する。
残り500mで、ベンナーティを捉えると、集団先頭をキープしたまま最後のS字コーナーへ突入する。

絶好の位置で発射されたマシューズは、ヴァンアーヴェルマートの番手につくと、最後の直線で一気に抜き去った。
追い上げるエドヴァルド・ボアッソンハーゲンを差し切って、写真判定の末ステージ2勝目を手に入れた。

マシューズは、中間スプリントポイントと合わせて50ポイントを獲得。
キッテルとの差は、いよいよ29ポイント差と逆転を射程範囲内に捉えた。

チームメイトの働きがあればあるほどに強くなるマシューズ

第17ステージでも、サンウェブアシスト陣は積極的にレースをコントロールする。
集団前方でレースを展開していたことで、後方で発生した大落車にマシューズは巻き込まれずに済んだ。(バルギルは巻き込まれてしまったが)

だが、この落車にはマイヨヴェールを着用するキッテルも含まれていた。
落車のダメージは大きく、キッテルはリタイアを余儀なくされてしまった。

熾烈なマイヨヴェール争いは、思わぬ形で決着がついてしまった。
このような形はマシューズ自身も望んでいなかっただろう。
キッテルが万全なら、第19ステージと最終ステージで100ポイント近く加算することも可能だったはずだ。

キッテルの落車は非常に残念だ。
とはいえ、サンウェブの功績は大きいだろう。
アシストをフル動員して、非常に際どい戦いを制してステージ2勝。
見事な戦略だ。
それゆえ、マシューズがマイヨヴェールを獲得したことは手放しで称賛したいと思う。

サンウェブのアシスト陣は決して強くない。
それは、ジロでも同じだった。

しかし、卓越した結束力、針の穴に糸を通すかのようなチーム戦略、そして何よりもチームメイトの働き・想いが強くなればなるほどに力を発揮する、まるで”元気玉”のようなマシューズのスプリントは本当に強かった。

残るステージ。
サンウェブアシスト陣に与えられた任務は、マシューズを無事にパリ・シャンゼリゼに帰還させることだ。

あと4日。
サンウェブアシスト陣の戦いはまだまだ続く。

Rendez-Vous sur le vélo…

6 COMMENTS

いちごう

来ましたね!サンウェブアシスト通信。
ドゥムランがエースだったジロと全く同じように、マシューズのために戦うアシスト陣。
サイバナならきっとフォーカスするだろうと思ってました。

特に第16ステージのサンウェブの勝ち方(あえてマシューズの勝ちとは言いません。)はとても美しい、最高の勝利だと思います。

他チームに行けばエース級となれる強力なアシストを複数揃えて、個の力の積み重ねで最強チームを作ったスカイなどとは違い、
個々の力は劣るものの、根性と強固な信頼関係をベースにした抜群のチームワークで作りあげたチーム力。

第16ステージのゴール後、疲労困憊で帰ってきたアシストやチームスタッフの歓喜の輪の中で揉みくちゃにされていたマシューズ。
一目でチームメンバーの関係性が理解できる、良いシーンでした。

「頑張って仕事をすればエースは結果を出してくれる」と信頼を寄せるアシストと、「みんながこんなに頑張ってくれたんだから、最後は自分が仕事しなきゃな!」と責任を果たそうとするエース。
恐らく、どのチームでもそんな関係性は存在してると思いますが、サンウェブの場合はもう一段高いところで結束してるように思えます。
スカイやカチューシャはエースもアシストもどこか「仕事」と割り切ってるドライな感じがします。
実際仕事なんで、それが悪いこととは思いませんが、サンウェブのメンバー同士にはもっと血の通った「熱さ」を感じてしまいます。

エースとアシスト、お互いの「熱」がそれぞれを高め合って良い結果に結びついているんだろうと思えてなりません。

キッテルのリタイヤという、思いもよらない形でマイヨヴェールが舞い込んできましたが、このチームならキッテルが居てもきっとマシューズに逆転させたんだろうと思います。

残りのステージ、キツイ山岳ばかりで疲れ切ってるアシスト陣ですが、きっと根性で乗り越えてシャンゼリゼでマシューズとバルギルの二人を表彰台に上げているでしょう。

返信する
サイバナ管理人

いちごうさん

> 「頑張って仕事をすればエースは結果を出してくれる」と信頼を寄せるアシストと、「みんながこんなに頑張ってくれたんだから、最後は自分が仕事しなきゃな!」と責任を果たそうとするエース。
> 恐らく、どのチームでもそんな関係性は存在してると思いますが、サンウェブの場合はもう一段高いところで結束してるように思えます。

まさしくですね!
デュムランとマシューズの2人を見ていると、これが偶然起きているとは思えないんですよね。
きっと、サンウェブの首脳陣は選手の人間性や、チームメンバーの国籍やバランスまで考慮して、溶け込めるような配慮をしているのだろうと思います。

今オフも、サンウェブがどんな補強をするのか楽しみです。

ツールの表彰台には、マシューズとバルギルしか上がることはできないかもしれませんが、ベストチーム賞(総合ではなく)があれば、迷わずサンウェブを推したいところです。

返信する
はしっこ

ジロからのサンウェブの成功っぷりは目を瞠るものがありますね。
マイヨ・ヴェールとマイヨ・ポアの二兎を追いながら、うまく二兎を両立させているところも素晴らしいです。
エースとアシストの関係性はあきさねさんやいちごうさんご指摘のとおりですが、2人のエースもお互いのために尽くし合っているところも素敵です。
第15ステージのバルギルの追走は、マシューズのコメントによると指示ではなくバルギルが自発的に飛び出したとのことですし、マシューズの山岳ポイント潰しは驚愕でしたし、ホントにチームが一丸になってるなっていうのが感じられます。
ゲシュケやテンダムはジロツールと計6週間も全力を振り絞り続けて今後に響かないんだろうか?って不安になっちゃうくらいです。

引き合いにだすのは悪いですけど、ダブルエースが全く機能せずアシストのモチベーションにも?がつけられてしまったアスタナとは対照的ですね・・・
アルも表彰台を失い結局ステージ勝利以外何も得られなかったわけですし。
スカルポーニがジロでエースとして、(出たかはわかりませんが)ツールで頼れるチームリーダーとして走っていれば・・・とどうしても思ってしまいます。

返信する
サイバナ管理人

はしっこさん

> 第15ステージのバルギルの追走は、マシューズのコメントによると指示ではなくバルギルが自発的に飛び出したとのこと

こういうことが、バルギルの判断でできて、マシューズのためにれるところが、良いチームだということを表していますよね。
2人はルームメイトで、仲もすごく良さそうですしね笑

アスタナは、スカルポーニももちろんですが、フグルサングが第5ステージで遅れていなければどうなったのだろう?とは思います。
その後の落車の怪我で完全に崩壊した感じです。

ヴィノクロフ大佐が立て直すのか、このままアルはどこかへ移籍してしまうのか。
色んな意味で注目です笑

返信する
はしっこ

(追記)
チーム一丸という点ではバルデとAG2Rも全力を振り絞って奮闘してると思うんですが、いかんせん相手が悪すぎましたね・・・

返信する
サイバナ管理人

はしっこさん

AG2Rは素晴らしかったですね!
見直しましたし、バルデのこともかなり好きになりました笑

返信する

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)