ピエール・ロラン5年ぶりのWT勝利。世界一諦めの悪い男が掴んだ栄光とは?

ついに、その時がやってきた。

ピエール・ロラン、5年ぶりのワールドツアー勝利である。
2012年ツール・ド・フランス第11ステージでの独走勝利以来の出来事である。

この5年の間には、下位カテゴリーでの勝利経験はいくつかあった。
だが、2011年ツールでマイヨ・ブランを獲得し、翌年のツールでもステージ優勝をあげたフランス人選手への期待は、下位カテゴリーの勝利程度では埋められない。

周囲のプレッシャーに押し潰されて、自分を見失い、ますます結果が出なくなる悪循環。
慣れ親しんだフランスチームを離れ、アメリカのキャノンデールへと移籍した2016年は全く良いとこなし。

心が折れても不思議ではなかった。

ロランには、
バンチスプリントを制するようなスプリント力はない。
タイムトライアルも苦手。
ダウンヒルも遅い。
得意だったはずのヒルクライムも、山頂の手前でタレてしまうシーンはもう見飽きた。

プロサイクルロードレース選手として、勝つために必要なスキルがほとんどないのだ。

一体なぜこのような選手に期待をしていたのか?
疑問に思わざるをえない時も、多々あった。

だが、なぜか応援したくなる。
いや、ロランならいつかきっと、と期待したくなる。

その理由は、ロランが決して諦めない選手だからだろう。

ワールドツアーで勝てなかった5年間、ロランは挑戦をやめなかった。
不屈の闘志だけは、心の中に絶えず炎を灯していた。

昨年のツール・ド・フランス第19ステージでは、逃げ切り勝利が濃厚な展開だったが、雨のダウンヒルで滑って落車。
人目をはばからず、ロランは泣いていた。

続くブエルタ・ア・エスパーニャでも、何度も何度も逃げに乗って、何度も何度もアタックを仕掛けるが、全て実らない。

今年のジロ・デ・イタリアでも、大会序盤から積極的に山岳賞を狙いにいき、逃げに乗ってアタックを試みるが、何一つ実らなかった。

第17ステージが始まるまで、ロランの山岳ポイントは26ポイントの12位。
トップのミケル・ランダとは100ポイント近い大差をつけられている状況だ。

ステージ優勝を狙って、たびたび仕掛けていくものの、必ずタレてしまい、追走に捕まる。
登りでもダメ、下りでもダメ。
もはや為す術もなく、何も出来ないまま今大会も終えようとしていた。

迎えた第17ステージ、ロランはまた諦めずに逃げに乗る

果たして意味があるのかさえも分からない山岳ポイントを積極的に獲りにいき、30ポイントを加算する。

一旦逃げから退くものの、大人数の追走集団に再び乗り込み、今度はステージ優勝を狙う。

だが、第17ステージは平坦基調のフィニッシュとなっており、最もロランに勝ち筋が見当たらないレイアウトとなっていた。
しかも逃げ集団には、スプリント力に優れるルイ・コスタやオマール・フライレ、そして第8ステージで勝利している好調ゴルカ・イサギーレらがいる。

どうやっても、ロランの勝利はない。
もはやアピール目的のアタックなんじゃないの?
今ステージでロランの勝利を予想するものは、誰一人としていなかったことだろう。

にもかかわらず、諦めの悪い男はもがき続けるかのように、逃げ集団からのアタックを繰り返す。
当然、アタックは決まらない。
ライバルたちがアタックを決めると、ロランはいつも通り遅れてブリッジを試みる。

どう見ても効率的な走りではなく、いたずらに体力を消耗するだけにしか見えない。

それでも、ロランは諦めない。

アタック合戦を繰り返し、疲労も見えてきた逃げ集団が一瞬牽制しあった瞬間をロランは見逃さなかった。
ついに単独アタックが決まったのだ。

集団とのタイム差をぐんぐん広げていく。
10秒、20秒と。

いやいや、ロランが平坦でこんなにタイムを離せるはずがない。
第16ステージでタイム表示がおかしくなったように、表示タイムが間違っているのだろう。

そう思い、目視でタイム差を確認してみると、画面上の表示タイムとピタリと一致する。

残り4kmで30秒差。
通常、平坦ステージでの逃げとのタイム差は10kmで1分縮められると言われている。
30秒なら5kmは必要な計算だ。
理屈の上では、ロランの逃げ切りがあり得る。

だが、そこはロランだ。
キャノンデール移籍後、『科学的なトレーニング』を積み、タイムトライアル能力の向上に努めたと言われているが、昨年のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでも、ツールでも、ブエルタでも、個人TTのタイムは全く凡庸な結果に終わっていた。

そのようなロランが、平地を独走し続けて逃げ切れるはずがない。
またタレてくるだろう、と見ていた。

しかし、追走集団内では完全に牽制モードに入っており、ロランを追うペースが上がらない。
追走集団内に潜んでいる、チームメイトのマイケル・ウッズの存在も影響したことだろう。

タイム差は25〜30秒あたりをキープしたまま、残り距離だけが減っていく。

とうとう、残り2kmを切った。
まだ25秒のリードがある。

ここまで来ると、さすがにステージ優勝があるのではないか?
ついにロランが勝つ時が来たのか?
あまり経験したことのない類のドキドキ感だ。

残り1kmのアーチをくぐり、残り600mの看板を越える。
後ろの集団は見えてこない。

当のロランは後ろを一切振り返ることなく、歯を食いしばってペダルを踏み続けている。

残り200m、ロランは初めて後ろを振り返る。
追走集団の姿は見えない。
残り100m、もう一度後ろを振り返って見ても、追走集団はやってこない。

そして、勝利を確信。
ガッツポーズを繰り返し、頭を抱えて「信じられない」というポーズをしてから、胸のスポンサーロゴをアピール。
フィニッシュ後も何度もガッツポーズして喜びを表現していた。

わたしも感無量だった。
あれほど、何をやってもダメだったロランが、まさか平坦ステージで勝利するとは思いもよらなかった。

やはり、諦めずアタックを続けることがレースで勝つために最も重要なことなのかもしれない。
アタックをしなければ、勝つことは出来ない。
当たり前の事実ではあるが、それを続けることは並大抵のことではない。
プロサイクルロードレース選手の中には、1勝も出来ずまま引退する選手の方が多いはずだ。

フランスのニューヒーローともてはやされてから、早5年。
総合を捨てて、決意のステージ優勝狙いに切り替えてから、ようやく掴んだ5年ぶりの栄光。

ポディウムの頂上で喜びを爆発させるロランの姿は、マイヨ・ブランよりも輝かしく見えた。

Rendez-Vous sur le vélo…

6 COMMENTS

蓮ぽとふ

ついに…ついにロランが勝った!!!!!
ジロは忙しさにかまけてほとんど観られていないので、ここで初めてこの事実を知ったのですが…。いやもう泣けますねこれは笑

持て囃されていたのも遠い昔、もはや誰にも期待されなくなってしまった彼が、こうして勝ってくれる時を私も待っていました!
ツール新人賞以来大きな実績はからっきし、デカイ口叩いて移籍しても結果は石器時代以下、カメラに映るのはクラッシュした時くらい、メディアにはもはや触れられることも稀。
そんな中でも諦めなかった彼とチーム。
私も去年のツールでの落車シーンは鮮明に憶えています。あの時はたいそうガッカリしたので笑「またロランはダメなのか…」と。
あの時の彼の悔しがり方は本物でした。観てる方もいたたまれなかったですね…なんでこいつはこんなに報われないんだって。

ロランはいつか必ずポディウムに戻ってくると信じていました、待っていましたとも!
実際ちゃんと戻ってきてくれましたし!思ったよりだいぶ遅かったけれども…!
「頼むから誰かこいつに勝利を掴ませてやってくれ」と何度思ったか笑

ここでようやく待ち焦がれた1勝。これに満足せず、更なる躍進に期待したいです。
…が、とりあえず今は喜びに浸っていて欲しいです笑

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サイバナ管理人

蓮ぽとふさん

> ツール新人賞以来大きな実績はからっきし、デカイ口叩いて移籍しても結果は石器時代以下、カメラに映るのはクラッシュした時くらい

ネタキャラとして、確立されかけていたロランだったのですが、ブエルタでひたすら逃げに乗って攻撃的な走りを見せ続けたことで、ロランへの印象が変わりました。
あまりにも必死で、一生懸命な走りが心に響いたんでしょうね。

今シーズンも、それほど良いところが無かったんですけど、何度も何度も続けた攻撃がようやく実り、念願のステージ優勝を果たせて、本当に良かったです。

翌日のステージも逃げに乗っていて、まだまだロランは貪欲に勝利を狙ってくれることでしょう!

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いちごう

ピエール・ロラン、そしてロランファンの皆様、おめでとうございます!

遂に勝ちましたね。
今大会、幾度となく逃げに入り込む姿がありましたが、例によってなかなか結果に結びつかなかったロランでしたが、遂に。。。

ポイントは無理に先頭で粘らずに、大きな追走集団の存在を確認して一旦そこまで下がったことでしょう。
3人しかいないグループより、大人数のグループで距離を消化していくことで、消耗を最小限にできたことが大きかったと思います。

人数が多いということはステージ優勝のライバルが増えてしまいますが、ゴール前数キロは登りであることから実質ライバルの人数が絞り込めること、そして何より消耗せずにゴール前まで行ける事を考えたのでしょうね。
そして有力選手が多いグループは、勝負どころでは牽制が入ることは他のレースでもしばしば起きていることも当然ロランは知っていたでしょう。

残り距離が微妙なところで仕掛けることで牽制を誘発させ、仕掛けた選手はまんまと逃げ切る。

ヨーロッパカー時代のロランのレース運びは、ライバルの動きに合わせていくことが多かったように思えますが、この勝利は真逆でした。

自ら逃げに乗り、追走が出来るや自らの判断で一旦下がり、終盤のアタック合戦ではじっと耐えて「その時」が来るのを待ち、牽制になった空気を読んで一気に仕掛ける。

前から思ってたのですが、ロランは逃げに乗るのが上手いと思います。

レーススタート直後から逃げたいと思って動く選手はそれこそ両手両足の指では足りないくらい居ります。
新城幸也選手のレースレポートなどを読むと分かりますが、自分が乗った逃げが決まるとは限らない訳で。
「自分が乗る逃げが潰されたあとのカウンターで行ったのが決まる」ということが何度も起きています。

しかしロランは確実に逃げに入り込んでおり、これはもう「逃げ屋のセンス」ですよ。

「この逃げは決まる」というところで確実に動ける。昨日の終盤のように「ここで動けばいける」というその感覚は言葉では表せません。もう「勘」でしかないんですよね。
スプリントもない、下りは下手、登りはタレる。
確かに勝つための身体能力は特に秀でてはいないのですが、「勝ち逃げを見極める能力」はプロトン随一かも知れません。

かつて、ジャッキー・デュランという選手がいました。
「逃げ屋」と言えばデュラン、というくらいツールを始めビッグレースでは逃げまくり、単独で150km以上を逃げ続けたことも一度や二度ではありません。

「100回逃げにトライすれば一度二度くらいは逃げ切れるもんだよ。」と、事もなく言ってのけたデュランですが、確実に逃げに乗ることも大変な訳で。
そしてその100回のトライが実を結んだ結果がツールのステージ3勝や、ロンド・ヴァン・フラーデレン、パリ〜ツール優勝などのビッグタイトルです。

そのデュランに感化されたか、2000年になるとエリック・デッケルという選手が現れます。

彼はその年のツールドフランスの全行程約3600kmのうちの1/3を逃げていたという、とんでもない走りを見せてその年と翌年にそれぞれステージ1勝。一躍人気者になります。
2003年以降はケガがちになり、目立った成績を残せなくなりますが、自分の中ではデュランと並ぶ、最高の「逃げ屋」です。

自分はロランには、ここを目指してもらいたいのです。
デュランやデッケルのようなTT能力もないのは百も承知、代わりに並み以上の登坂能力はある。
アップダウンのあるコースで「勝ち逃げ」を見極めてしっかり乗れる能力をフルに発揮して「逃げ屋」になってくれないかな。

そう期待してしまう、今大会のロランでした。

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サイバナ管理人

いちごうさん

いちごうさんのコメントを読んで思ったことは、ロランが逃げに乗るコツの一つに『ある程度逃げが塊になってからブリッジをかける』という手法があるのではないかと思いました。
ブリッジかける分、余計に体力を消耗するのですが、出力をあげる機会は1回でいいので、結果的に少ない体力消耗で済む、という算段です。

もしかしたら、ひたすら逃げに乗ろうと試みる回数がダントツで多い可能性もありますけどね。
とにかく体力の消耗なんて1ミリも気にせず、ひたすらアタックを繰り返し、逃げが確立しそうになったら、気合いでブリッジする、みたいな。

逃げに乗った距離だけでなく、逃げに乗るためにアタックした回数とか、ディメンションデータあたりに計測してほしいです笑

今年のツールでは、ひたすら逃げる「逃げ屋」としてフランス中の注目を集める存在になってほしいものです。

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いちごう

レース走ると分かるのですが、「ブリッジ」って、博打の要素もあるんですよね。

(もちろんプロ選手と我々草レーサーとでは持続できるスピードもスタミナもパワーも段違いではありますが)

博打要素その1

ブリッジを仕掛けて追い付こうとしても、前に居る逃げグループが全開で集団を引き離そうとしてる場合、追いつけずにタレて逃げと集団の間で宙ぶらりんになることが起き得ます。さっさと集団に戻るかそこで粘るか判断に迷うと消耗して終わります。プロでも時々ありますね。

博打要素2
ブリッジを仕掛けて追い付いても、消耗しすぎてる場合はそれからローテーションに加われず、逃げ仲間から邪魔扱いされる。
この場合、登りなどでペースを上げられ千切られます。
あるいは追いつくために脚を使って本当に牽けないのに、周りには脚を溜めてると勘違いされ逃げ自体のペースが落ちてしまい集団に捕まることも。
(これは草レースならではかも知れません。)

博打要素3
ブリッジを仕掛けるつもりで動いた結果、後ろを引き連れて行ってしまうパターン。
これが最悪です。加速にキレがない場合は他の選手に反応されてしまい、言葉は悪いですが「金魚のフン」みたいに後ろにズラ〜っと並んだ選手を引き連れて行ってしまい、結果集団の全員が付いてきてしまいます。

なかなか決まらないアタックの典型もこれに近いのですが、序盤のアタック合戦の場合は潰す気で反応してるので、選手の心理は違います。

逃げが行った後は、コントロールする意思のあるチームが、アタック合戦を終わらせるべく集団の前に「蓋をする」動きがあります。

その後に飛び出していくのがブリッジですから、周囲が行く気のないタイミングで、他の選手に反応させない加速のキレを以つて動く必要があります。
そして追い付いてからも周りと同じだけ動ける身体とメンタルのスタミナも必要。

ロランの場合、スプリンターではないので加速のキレ自体はそんなに無いと思われます。
とすると、やはり行くタイミングを掴むのが上手いんだろうと想像します。

端的に言えば身体能力よりも根性で走るタイプ。そして仕掛けどころを見極める勝負勘はちゃんと持ってる。

こういったタイプの選手はアタッカーが向いてますよね。
ロラン本人も「自分は本来アタッカー。クレバーに保守的に走って総合順位を守るやり方は性に合わない」
と言ってますし、ツールの総合順位を狙う選手への周囲の期待が他の選手に移ったことで、本来の走りが蘇ったのでしょうね。
そしてキャノンデールに移籍したことでトレーニング方法も変わり、身体能力も改善された結果がステージ優勝なのでしょう。

何度もトライした末にやっと掴んだ勝利。これに味を占めて、今後は逃げグループの中にロランの姿を見る頻度が更に増えるかも知れませんね。

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サイバナ管理人

いちごうさん

いつも分かりやすい解説ありがとうございます!
確かに、ブリッジと一言で言っても、逃げのアタックと同様にリスクはありますね。
周りが動かないと判断する観察力や、ある種の勘が鋭いのかもしれませんね。

次は、ツール・ド・フランスですね。
フランス人の衆目が集まる場で、果たして本来の力を発揮できるかどうか注目したいと思います。

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