怒りのエリア・ヴィヴィアーニ、金メダリストが見せた意地の勝利とは?

チームスカイのジロ・デ・イタリア出場メンバーが発表された。

エースのゲラント・トーマスで総合優勝をガチで狙う、チームスカイの本気度が伝わる人選となっている。

まず、元TT世界チャンピオンのヴァシル・キリエンカがロースター入りしたことは、非常に重要な意味を持つ。

キリエンカは、ツール・ド・フランス3連覇を狙うクリス・フルームにとって、物凄く重要なアシストである。
平坦での牽引力だけでなく、ある程度の山なら軽々とこなせる上に、山岳でのペースメイクも可能だからだ。

かなりヘビーなアシストをするため、チームスカイ移籍後に同年にジロとツールの両方に出場することは一度もなかった。

つまり、ツールではキリエンカ抜きで戦うのか、あるいはツールで満足のいくパフォーマンスが発揮できないリスクを背負ってジロとツールのダブル出場をするのか。
どちらにせよ、チームスカイにとって大きな決断だったように見える。

それだけ、トーマスへのマリアローザの期待が大きいということだろう。

山岳アシストには、これまたツールへの出場が有力視されていたケニー・エリソンドがメンバー入りしている。
今シーズンからチームスカイに移籍したフランス人には、険しいジロの山々でトーマスを支える任務が与えられるだろう。

だが、エリソンドはオフシーズンからフルームのトレーニングパートナーとして多くの時間を共にしていた。
ツールに出場しないトーマスに代わるフルームの右腕的存在として、エリソンドを重用したい意思があったのではないかと筆者は見ていた。

若きエリソンドは、ツールへの出場経験はまだなく、もちろんジロとツールを同年に出場した経験もない。
ここに来て、フルームの相棒としてではなくトーマスの相棒として起用することが、突然で意外であることが伝わるだろうか。

このように、ジロにキリエンカとエリソンドを出場させることは、チームスカイがマリアローザを本気で狙っているという、強い意思の現れであるのだ。

完全に総合優勝を狙うチームへの変貌を遂げた結果、総合狙いに必要のない脚質の選手は
ジロのメンバーから外された。

そう、エリア・ヴィヴィアーニのことだ。

ヴィヴィアーニが外された理由とは?

イタリア人であるヴィヴィアーニにとって、ジロへの出場は既定路線だと思われていた。
実際に、キャノンデール時代の2013年から4年連続でジロに出場していた。

2015年にはステージ優勝をあげるなど、一定の成績は残していたのだ。

しかし、昨シーズンはジロも含めてワールドツアーカテゴリーのレースでは未勝利に終わり、今シーズンも1勝も出来ずにいた。

2位に入る機会は非常に多く、ヴィヴィアーニもまた『シルバーコレクター』というありがたくない称号を得ていた。

今シーズンは、
ブエルタ・サンフアン第1・2・4ステージで2位
ドバイツアー第5ステージ2位
シュヘルデプライス2位
と、これらのレースは全てクイックステップ・フロアーズ勢の前に2着でフィニッシュしている。

そして、ティレーノ・アドリアティコ第3ステージでも2位。
こちらは、ペーター・サガンに敗北している。

つまり、ヴィヴィアーニはそこそこ上位に入るけど、フェルナンド・ガヴィリア、マルセル・キッテル、ペーター・サガンといったトップスプリンターには歯が立たなかった。
ヴィヴィアーニは二級スプリンター、そう評価されてもおかしくはない。

だから、ヴィヴィアーニがジロのメンバーから外されたとは決して思わない。
あくまで、総合優勝を狙うための編成上の都合だろう。

しかし、もしヴィヴィアーニが昨シーズンから勝利を量産していたらどうだっただろうか?
一級スプリンターであるキッテルやサガンたちを下していたらどうだろうか?
いくら、総合優勝を狙うチームとはいえ、ジロでのスプリント勝利を狙ってヴィヴィアーニを出場させる余地はあったかもしれない。

と、ヴィヴィアーニ自身は思ったことだろう。

なぜなら、ヴィヴィアーニは2016年リオ五輪トラック競技男子オムニアム金メダリストである。
トラックとロードレースの競技性は違えど、銀メダルのマーク・カヴェンデッシュを上回る走りを見せていたのだ。

ヴィヴィアーニには、トップスプリンターに匹敵する潜在能力がある。
誰よりも、ヴィヴィアーニ自身がその可能性を信じ、期待にそぐわない結果に納得していなかっただろう。

そこに来て、ジロのメンバー選外の知らせが届く。

だから、ヴィヴィアーニは怒った。
不甲斐ない走りをしている自分自身に対してだ。

チームメイトに託された想いと、チームメイトに託した想い

ツール・ド・ロマンディ第3ステージは、前日までの悪天候とは打って変わって好天に恵まれた。

集団スプリントが狙えるステージで、チームスカイはエーススプリンターであるヴィヴィアーニでの必勝態勢を築く。
普段ならフルームのために集団牽引するチームメイトたちも、この日はフルーム自ら集団牽引を担い、ヴィヴィアーニをサポートしていた。

極めつけは、残り1kmを切ってからのチームスカイの走りだ。

先頭はクリス・フルーム。
残り1kmを切ってのポジション争いでは、時速60キロ近いスピードが出ていたかもしれない。
TTスペシャリストでもあるフルームにとって、時速50キロ前後での走行なら得意分野ではあるが、それ以上となると荷が重い。

ところが、第1ステージでスプリントに参加して5位に入るほどの力を見せたフルームは、ここでも高いスプリント力を披露した。
見慣れない高速域でのダンシングで加速しながら、先行するボーラ・ハンスグローエのトレインを捉えた。
ボーラトレインの進路を塞ぐように、フルームが前に出たところでお役御免。
続いてオウェイン・ドゥール、ジャンニ・モスコンがヴィヴィアーニを好位置に引き上げていく。

フルームが築いたポジションを、ドゥールとモスコンはしっかり守った。
あとは、ヴィヴィアーニを発射するだけ。
というタイミングで、オリカ・スコットのアレクサンダー・エドモンドソンが大外から早いタイミングで仕掛けて来た。

すかさず、ヴィヴィアーニは反応する。
2車身程度離されるも、チームの完璧なサポートを受けていたヴィヴィアーニの加速は見事だった。

エドモンドソンをかわし、好調のソニー・コルブレッリの追い上げもかなわず、ヴィヴィアーニは最初にフィニッシュラインに到達した。
待ちに待った今シーズン初勝利だ。

久々の勝利は、ワールドツアーの舞台では、実に2年ぶりだった。
何より、シルバーコレクターと称され、ジロのメンバーからも外れたヴィヴィアーニの怒りにも似た走りは、リオ五輪金メダリストの面目躍如と言える凛々しい姿だった。

ヴィヴィアーニは結果で答えた。
それでも、ジロだけでなく、ツールにも出場できないかもしれない。
単に実力不足という問題ではなく、編成上の問題だからだ。

だが、チームは間違いなくヴィヴィアーニのスプリント力を再評価したのではないか。
グランツールに出場できなくとも、他の重要なレースでは、ヴィヴィアーニで再び勝利を狙うだろう。

さて、ヴィヴィアーニを選外にしてまで、必勝体制で挑むジロ・デ・イタリア。
エースを担うゲラント・トーマスにとっては、この日のヴィヴィアーニの走りは良い刺激になったに違いない。

9人しか出場できないグランツール。
出場できないメンバーの想いを背負って、エースは負けられない戦いの日々を送る。

ヴィヴィアーニの想いも背負いながら、トーマスはマリアローザを狙う。
ミラノのポディウムのてっぺんで、『sky』のロゴが入ったピンク色のジャージを目にした時、ヴィヴィアーニは本当の意味で報われるのではないだろうか。

Rendez-Vous sur le vélo…

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