ミッチェルトン・スコット戦力分析!【2018年シーズン】

エステバン・チャベス、サイモン・イェーツ、アダム・イェーツと3人の総合ライダーと、エーススプリンターにはカレブ・ユアンを擁するオリカ・スコット改めミッチェルトン・スコット。

若きエースたちを支える重厚なアシスト陣が控え、バランスが良い上に突出した力を持つ強力チームへと進化を遂げた。

ミッチェルトン・スコット2018ロースター

エステバン・チャベス(コロンビア)
サイモン・イェーツ(イギリス)
アダム・イェーツ(イギリス)
カレブ・ユアン(オーストラリア)
ミヒャエル・アルバジーニ(スイス)
サム・ビューリー(ニュージーランド)
ルーク・ダーブリッジ(オーストラリア)
アレクサンダー・エドモンソン(オーストラリア)
ジャック・ヘイグ(オーストラリア)
マシュー・ヘイマン(オーストラリア)
マイケル・ヘップバーン(オーストラリア)
ダミアン・ホーゾン(オーストラリア)
ダリル・インピー(南アフリカ)
クリストファー・ユールイェンセン(デンマーク)
ロジャー・クルーゲ(ドイツ)
ロマン・クロイツィゲル(チェコ)
ルカ・メスゲッツ(スロベニア)
ロブ・パワー(オーストラリア)
スヴェイン・タフト(カナダ)
カルロス・ベローナ(スペイン)

・新加入選手
ミケル・ニエベ(スペイン)←チームスカイ
マッテオ・トレンティン(イタリア)←クイックステップ・フロアーズ
ジャック・バウアー(ニュージーランド)←クイックステップ・フロアーズ
ルーカス・ハミルトン(オーストラリア)←ミッチェルトン・スコット(CT、中国)※本チームの下部組織
キャメロン・マイヤー(オーストラリア)←ミッチェルトン・スコット(CT、中国)※同上

・退団選手
マグナス・コルトニールセン(デンマーク)→アスタナ
イェンス・クークレール(ベルギー)→ロット・ソウダル
ミッチェル・ドッカー(オーストラリア)→EFエデュケーションファースト・ドラパック・パワードバイ・キャノンデール
サイモン・ゲランス(オーストラリア)→BMCレーシング
ルーベン・プラサ(スペイン)→イスラエル・サイクリングアカデミー(PCT、イスラエル)
チェン・キンロー(香港)→未定

TT力に課題も、総合争いできる3人のエース

グランツール表彰台を狙える選手が、チームには3人もいる。2018年に28歳になるチャベスと、26歳になる双子のイェーツ兄弟だ。

Embed from Getty Images

チャベスは2016年シーズンには、ジロ・デ・イタリア総合2位、ブエルタ・ア・エスパーニャ総合3位となった。課題の個人TTさえ改善されればグランツールチャンピオンになるのも時間の問題と思われていたのだ。

ところが、2017年は初戦のツアー・ダウンアンダーで総合2位と出だしは良かったものの、以降は膝の怪我に悩まされ長期離脱も経験した。クリテリウム・デュ・ドーフィネで戦線復帰して、自身初のツール・ド・フランスに出場したものの本調子とは程遠い姿で、総合62位で終わった。

続くブエルタでは、序盤はクリストファー・フルームに肩を並べる登坂力を見せていたものの、2周目以降は徐々に調子を落としてしまって総合11位だった。

2016年に優勝したイル・ロンバルディアを狙って、イタリア秋のクラシックシリーズに出場を決めたものの、ジロ・デッレミリア(1.HC)では終盤にダウンヒルで落車してリタイア。肩甲骨を骨折してしまい、そのままシーズンを終えた。チャベスにとって2017年は全く良いところがない、試練の一年となった。

ブエルタでは一時期総合2位につけていたように、コンディションが良い時のチャベスの登坂力は健在だ。3週間戦う体力さえ調整することができれば、グランツールでも良い結果を残せるはずだ。そして、個人TTの改善がなされれば総合優勝も見せてくるはずだ。

双子のイェーツ兄弟の2017年シーズンは、兄弟で明暗が分かれる結果となった。

サイモンは、パリ〜ニース第6ステージではラスト20kmを独走して逃げ切り勝利を飾り、スペインのワンデーレースであるGP・ミゲルインデュライン(1.1)で優勝、ツール・ド・ロマンディ第4ステージで勝利して総合2位、そしてツールでは総合7位に入って、2016年のアダムに続いて史上初兄弟で2年連続新人賞を獲得した。ブエルタではやや疲れがあったのか、不調に終わり総合44位だった。

一方、アダムはシーズン序盤のイタリアのワンデーレースであるGPインドゥストリア&アルティジアナート(1.HC)で優勝を飾ったものの、ティレーノ~アドリアティコは総合2位のままリタイア、ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ総合4位と来て、ジロ・デ・イタリアでは総合9位に。ツール・ド・ポローニュ総合5位、ブエルタ総合34位、ミラノ〜トリノ(1.HC)2位と良い位置まで行くものの勝ち切れないレースが多かった。

だが、サイモンとアダム、どちらにもいえることだが、2人はまだミッチェルトン・スコットの育成プログラムの途上にある。首脳陣も、2人が2つのグランツール両方で成績を出せるとは思っていなかったようで、むしろ兄弟で2年連続ツール新人賞に輝いたことが嬉しい誤算だといえよう。

ならば、2人の力はまだまだこんなものではないということだ。

サイモンもアダムも、思い切りのよいアタックと、ダウンヒルテクニックが高く、クライマーとしてはスプリント力も高い。アルデンヌクラシックでも勝利が期待できる潜在能力を持っているように見える。

ただし、サイモンはツール・ド・ロマンディの最終ステージの個人TTでリッチー・ポートに逆転され総合優勝を逃し、アダムはジロの最終ステージの個人TTでボブ・ユンゲルスに逆転され新人賞を逃しているように、チャベスと同じく個人TTは大いに改善の余地がある。

ナイロ・キンタナも、元々は決してTTが得意な選手ではなかった。だが、今では高い登坂力を維持したまま、TT力を伸ばすことに成功している。ミッチェルトン・スコットのTT力改善に向けたアプローチに期待したいところだ。

2018年はチャベスとサイモンがジロとブエルタに、アダムがツールに出場予定だ。アダムは単独エースを担い、サイモンはチャベスとのダブルエースとなりそうだ。

山岳アシストにニエベを補強

チャベスとイェーツ兄弟の成長曲線に沿うかのように、ミッチェルトン・スコットの山岳アシスト陣も年々厚みを増している。

2016年はクイックステップからベローナを、2017年はティンコフからクロイツィゲルを、そして2018年はチームスカイからニエベを獲得した。さらに、ホーゾン、ヘイグといった若手クライマーも育ちつつある。

ニエベは2010年から2017年にかけての8年間で14回のグランツールに出場し、すべて完走している。最高順位は2015年ブエルタの総合8位で、最低順位は2016年ジロの総合25位だが、同大会ではステージ優勝を飾っている。安定して総合10位台で完走する力と、ステージ優勝を狙いさえすれば勝ち取れる力を持った強力なクライマーだ。

Embed from Getty Images

2018年には34歳を迎えるベテランであり、常勝軍団で培った勝利の哲学をチームにもたらしてくれることだろう。

クロイツィゲルは、プロ・エッツタール5500(1.1)という、獲得標高が5500mを越えるというとんでもないワンデーレースで独走勝利している。淡々とペースで上ることが得意な選手だ。

ベローナも、安定した走りが魅力の選手で、2017年はグランツール2つを含む出場したレース全てに完走している。

ホーゾンは、2016年ブエルタ第20ステージで、チャベスのために献身的なアシストをしていた。その姿が認められ、チームと契約延長を果たし、2017年はヘラルド・サンツアー(2.1)でステージ1勝をあげ、総合優勝を果たした。めきめきと登坂力を身につけている状況だ。

ヘイグは、ツール・ド・ポローニュ第6ステージでプロ初勝利となる独走逃げ切り勝利を飾った。ブエルタでは2016年の総合117位から2017年は総合21位で完走を果たしており、著しい成長を見せている。

また、21歳のハミルトンはオセアニアロード選手権優勝に始まり、U-23リエージュ~バストーニュ~リエージュ3位、ネイションズカップのワンデーレースでは4度の2位、U-23版ジロ・デ・イタリア1勝&総合2位、ツアー・アルザス(2.2)総合優勝、そしてツール・ド・ラヴニール(2.Ncup)総合4位と若手としては抜群の実績を残している。
少し2位が多いことが気にはなるが、ヒルクライムも独走も得意としており、オールラウンダーとしての成長が期待される。

グランツールにおける山岳アシストは、ニエベを筆頭に、このメンバーから選ばれるだろう。

クラシック狙いは2017年と同様の布陣

北のクラシックでは、ダーブリッジがエースとなるだろう。

元々TTスペシャリストとして、石畳のレースには相性が良くなかったが、2017年は成績が急上昇。ドワーズ・ドール・フラーンデレン4位、E3ハーレルベーケ4位、ロンド・ファン・フラーンデレン12位と一定の成績を収めている。狙うはパリ〜ルーベでの勝利だ。

Embed from Getty Images

2016年パリ〜ルーベ覇者のヘイマンは、2017年の同レースで11位と引き続き好成績を収めた。40歳を迎える大ベテランは、まだまだ元気だ。

アルデンヌクラシックではアルバジーニが中心となるだろう。2017年はアムステルゴールドレース3位、フレーシュ・ワロンヌ5位、リエージュ~バストーニュ~リエージュ7位と一桁順位を連発。前後のボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャでステージ1勝、ツール・ド・ロマンディでも1勝と春先の好調ぶりがうかがい知れた。

2016年イル・ロンバルディア優勝のチャベス、2015年クラシカ・サンセバスティアン優勝のアダム・イェーツもアルデンヌクラシック系のレースでは好成績を期待できるが、グランツールを優先するため春のクラシックでは調整段階の途上にある可能性が高いだろう。

とはいえ、アルバジーニは2018年シーズンを37歳で迎える大ベテランだ。ユールイェンセンやパワーの台頭に期待したい。

ユアン、トレンティンのダブルスプリンター体制

2015年に11勝をあげて、鮮烈なプロデビューを果たしたユアンは、2017年も10勝をあげた。うち7勝はワールドツアーでの勝利であり、ユアン自身の実力を証明した。身長165cmの小柄な体型ながら、超低空姿勢から繰り出される破壊力抜群のスプリントから、”ポケットロケット”の異名を持つ。

Embed from Getty Images

その超低空スプリントに持ち込みさえすれば、無類の強さを誇っている。超低空スプリントに持ち込む条件はただ一つ。集団の先頭でユアンを発射することだ。

クルーゲ、メスゲッツ、インピーが最終リードアウトを担うことが多かったが、ここにトレンティンが加わる。トレンティンの最高スピードはクルーゲ、メスゲッツ、インピーをも上回るだろう。ユアンにとって非常に強力なリードアウトを手に入れたことになる。

最終リードアウト陣に繋ぐトレインを担うルーラー陣も粒ぞろいだ。

タフトとヘイマンは延々と集団を牽き続ける力を持つ。ダーブリッジ、ビューリー、ヘップバーンは、より高速度で集団牽引が可能だ。ここにニュージーランドTT王者のバウアーが加わり、2017年トラック世界選手権団体追抜とポイントレースで金メダルを獲得したキャメロン・マイヤーもチームへの復帰を果たす。さらに、23歳のエドモンソン、22歳のパワーも控えており、リードアウトトレインの戦力層はもはや世界一といって良いかもしれない。

とにかくユアンは集団の先頭でスプリント体勢に入ることができれば、勝率100%に限りなく近いので、必ずユアンを先頭で発射するためにトレインを大補強した形だ。

タフトが牽いて、残り10kmからはバウアーとマイヤーが牽き倒し、クルーゲがポジションをキープしたままメスゲツに繋ぎ、メスゲッツはトレンティンを発射、ラストのトレンティンが残り250mでユアンを解き放ってミッションコンプリート。これだけの強力なトレインを形成しても、まだまだ強力メンバーが控えている手厚さがあるうえに、トレンティン自身がエースとしてスプリント勝利を狙うことも十分可能だ。

2017年はフェルナンド・ガビリアが大ブレイクしたが、2018年はユアンが大爆発する予感をひしひしと感じさせる本気の陣容といえよう。

そして、2018年シーズンは満を持してツールに初参戦する。マルセル・キッテル、マーク・カヴェンディッシュ、ペテル・サガン、アンドレ・グライペルらに混じって集団スプリントに挑むポケットロケットに注目だ。

総合とスプリント勝利に重きを置いたメンバー構成

グランツール:★★★★☆
北のクラシック系:★★★☆☆
アルデンヌクラシック系:★★★★☆
スプリント:★★★★★

2017年はジロにアダム・イェーツ、ツールにチャベスとサイモン・イェーツ、ブエルタにチャベス、アダム&サイモンが出場した。2018年は、どのグランツールに誰を起用するか注目したい。個人的にはもう一度、2017年ブエルタのようなトリプルエース体制を見てみたい。

そして、チームのユアンへの期待の高さを裏付ける、スプリンタートレインの大補強もあり、各種ステージレース、スプリンタークラシックでの勝利が期待される。とはいえ、ミッチェルトン・スコットの方針的には、23歳と若いユアンに無理はさせたくないはずだ。ユアンはどれか1つのグランツールに出場することになるだろう。

もちろん、ブエルタでステージ4勝をあげたトレンティンも、再びブエルタでの勝利を期待されているはずだ。となると、強力なスプリンタートレインがあっても、総合系選手との兼ね合いが難しくなってくる。

だからこそ、ある程度上りもこなせるバウアーとマイヤーを補強したことが大きい。スプリンタートレイン陣に山岳トレイン的な仕事を任せることも可能になってくるからだ。

総合とスプリント勝利に重きを置いた構成になっているため、ワンデークラシックを狙う選手層は戦力ダウンとなっている。とはいえ、実績豊富な選手が揃っているので、ある程度の結果は残せるだろう。

総合成績、ステージ勝利、ワンデーレース、と満遍なく勝ちが狙えつつ、総合とスプリントでは非常に尖った力を持つ強力チームに仕上がっている印象だ。

・関連記事

使えるものは全て使うカレブ・ユアンの理詰めのスプリントとは?

 ユアンの超低空スプリントについて解説した記事。

カレブ・ユアン待望の初勝利!集団牽引、位置取り、リードアウト、スプリント、全てが噛み合ってギリギリ掴んだ勝利とは?

 今年のジロでは、ルーラー陣の力不足を徹底的に攻撃され苦戦を強いられていた。ゆえに、ルーラーを補強したミッチェルトン・スコットのチーム方針はドンピシャなのだ。

アダム&サイモン・イェーツ、双子の兄弟が見据える未来とは?

 育成プログラムの途上にあるアダムとサイモンの目標は何か?ということについて書いた。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)