ダゾーン初の日本語実況レース!ジロから始まる新しいサイクルロードレース文化とは?

ボーラ生え抜き三銃士の一人であるチェーザレ・ベネデッティ。
ボーラ・ハンスグローエの前身の前身チームであるチーム・ネットアップ設立当初のメンバーの一人である。

得意の逃げに乗って、初日の山岳賞を確定させ、マリア・アッズーラをゲット。

そして、100%集団スプリントになると思われていたステージで、ルーカス・ペストルベルガーの奇襲アタックが成功し、追いすがるスプリンターたちを振り切ってステージ優勝。
見事、大金星をあげた。

マリア・ローザだけでなく、マリア・チクラミーノも獲得し、25歳であるペストルベルガーはマリア・ビアンカも手にした。

記念すべき第100回大会となったジロ・デ・イタリアの第1ステージは、ジャージ総なめにしたボーラ・ハンスグローエの独壇場となった。

そして、この日はレースを放送したダゾーンにとっても記念すべき、初の日本語実況・解説つきのレースでもあった。

オンデマンド配信界の黒船と言われたダゾーンではあったが、歴史あるレースであるロンド・ファン・フラーンデレンを放送しないなど、既存のサイクルロードレースファンから猛烈な非難を浴びていた。

打倒ダゾーン。
J Sportsに復権あれ。
尊王攘夷を掲げる志士ように、ダゾーンを外敵と見なす風潮が大勢を占めていた。
かく言うわたしもその一人である。

しかし、ダゾーン版ジロ・デ・イタリアの放送を見てみると、文明開化の音が聞こえたかのような感想を抱いた。

初心を思い起こさせる、木下貴道さんの丁寧な実況

本レースの実況を担当したのは木下貴道さんだ。
普段はラグビーや野球中継の実況を担当しているフリーアナウンサーであり、J Sports中継ではお馴染みの谷口廣明さんと同じ会社に所属しているそうだ。

『サイクルロードレースはテレビで数回見た程度』とのことで、サイクルロードレースの実況には初挑戦となる。

ご自身のTwitterでは、健気にチクリッシモを読んだり、コースプロフィールをプリントアウトして勉強している姿が見られた。

だが、サイクルロードレースの実況は難しい。
レース展開は複雑だし、何より瞬時に選手を判別することが非常に難しい。
極め付けは、場合によっては何時間も展開が変わらない中で視聴者を飽きさせないことが最も大変な仕事となる。

プロの仕事と比較するのは恐縮ではあるが、わたしもレース実況と題してラジオ放送をやってみたから、その難しさは身に染みているつもりだ。

レース展開が動かないレースでは、本当に喋る内容に困るのだ。
レースに詳しかろうが、詳しくなかろうが、動きがないものを見ている中で、話を広げていくことは至難の業だと痛感した。

幸いなことに、わたしの場合は視聴者(聴取者)のコメントのおかげで話を広げることが出来て、何とかそれらしい形で放送が成立していたように思える。

だが、木下さんは隣に解説の別府始さんがいるだけで、あとは全くの孤立無援である。

しかも目の前では、ほとんど動きのないレースが展開している。

そこで、木下さんはあえてレース実況が初めてであることを包み隠さずレース実況に挑んだ。
恐らく実況のオファーを受けてから、本番当日まで決して多くの時間は無かったと思われる。

そのなかでも適度に専門用語を使いながら、過去の大会での出来事や最近起きたニュースをまじえながら、最大限サイクルロードレースのことを勉強してきた成果が見える実況だった。

さらに、自分自身がレース観戦も初心者である立場を活かして、分からないことや分かりにくいところをひたすら解説の別府さんに聞くスタイルをとった。

一体どれだけ別府さんに喋らすねん!というツッコミが飛んで来そうなほどの質問攻め。
視聴歴の長いサイクルロードレースファンにとっては、もう知ってるよ。という内容のオンパレードだったかもしれない。

だが、初めてサイクルロードレースを見る人にとっては、別府さんの分かりやすい説明も相まって、非常に丁寧な初心者向けの放送だったのではないだろうか。

ダゾーンはマーケット拡大して、確固たるビジネスを築きたい

そもそも、ダゾーンはなぜ日本に進出して来たのか?
とある報道によると、日本の若年層のスマホユーザーに注目したからだと言う。

わたしは、ダゾーンやYouTubeなど、インターネット上で動画を見る場合は、Wi-Fiに接続出来る場所、もしくは光回線などを引いた自宅のPCで視聴している。

一方で20代前半や10代の若者たちは、スマホ上で全てが完結していることが多い。
スマホでネットして、スマホで写真を撮って、挙げ句の果てにスマホで論文執筆をしているという話も聞いたことがある。
フリック入力に慣れすぎて、PCでのキーボード入力が出来ない新卒もいるそうだ。

そのような若者たちは、通信量を恐れることなくスマホでYouTubeなどの動画も視聴する。

ゆえに、ダゾーンは新たに若年層を取り込むことが出来れば、今まで以上の市場規模で、動画配信業を成り立たせることが出来ると考えたのだ。

Jリーグを視聴するファンの平均年齢は高い。
言い換えれば若者はJリーグをあまり見ていない。
ゆえに、マーケット開拓の余地があるということだ。

サイクルロードレースにも同じことが言える。
わたし自身『サイバナ』を運営していて感じたことの一つが、アラフォー・アラフィフ世代と思しき方々の反響をいただく機会が非常に多く、サイクルロードレースファンには昔からファンだった人が多いのではないかと思う。

何もサイクルロードレースに限ったことではなく、Jリーグもプロ野球もファンの平均年齢が高くなっている。
つまり、新たに若年層の新規開拓・取り込みがうまく行っていないものと思われる。

これには地上波中継が少ないこと、スポーツ観戦以外に消費できるエンターテイメントが多様化していることなど、様々な要因があるだろう。

もう一つ言えることは、日本国内においてサッカーや野球に比べて、サイクルロードレースはマイナースポーツであるということだ。
マイナースポーツであるがゆえに、どうしても競技人口は少なくなるし、そのスポーツを観戦する文化も育ちにくい。

箱根駅伝では、公道を封鎖してレースが出来ているのに、サイクルロードレースとなると『警察の調整が…』『各自治体の協力が…』などの理由で、サイクルロードレース開催のハードルが高くなっている。

箱根駅伝とサイクルロードレースの開催ハードルは、傍目には同じくらいに見えるのだが、
サイクルロードレースの開催に四苦八苦するのは、ひとえに日本のサイクルロードレース文化が世間に浸透していないからではないかと思う。

一言でいえば、ファン(理解者)が少ないということに繋がる。
そのため、この先サイクルロードレースが日本で発展していくためには、新たなファンの開拓が必要不可欠だろう。

プロ野球のテレビ中継、サッカーのJリーグのように注目される機会が増えることでファンが増え、そのスポーツ選手を目指す子供たちも増える。
そうして、プロ野球もJリーグも、年々競技レベルを向上させてきたのではないだろうか。

わたしは、サイクルロードレースにも同じ道をたどって欲しいと切に願っている。

だから、ダゾーンの出番だ。
ダゾーンには、既存のファンを満足させることだけではなく、スマホ中心の生活を送る若年層という新しいファン層を開拓することに、期待を寄せている。

Jリーグでも、MLBでも、NFLでも、WWEでも何でもいい。
それらを見るためにダゾーンを契約した人々が、サイクルロードレースって何だろう?と思って、たまたま視聴したことをキッカケにハマる可能性もあるはずだ。

少なくとも、わたしはそうだった。

当時はプロ野球の試合を見たくてJ Sportsを見ていた。
夏休みの日中という暇な時間帯に、何気なくJ Sportsにチャンネルを回してみると、再放送のツール・ド・フランスを放送されていた。
ひまわり畑を走り抜ける映像の壮大さと美しさに魅了されたことがキッカケとなり、サイクルロードレース観戦にハマったのだ。

同じことが、ダゾーンでも起きないはずがない。

破壊者と言われたダゾーンは、創造者となれるのか?

実況の木下さんはレース実況が初めてだっただけでやく、サイクルロードレース観戦に関しても玄人ではない。
だからこそ、サイクルロードレースを全く知らないような人たちが見ても楽しめる中継を作ろうとしたのではないだろうか。

あまり初心者向けにしてしまうと、既存のファンは退屈してしまうのではないか?という心配はごもっともだ。

J Sportsの中継が好き!という人たちにとっては、物足りない可能性はある。
だが、一方でJ Sportsのような内輪ノリをあまり好まない人たちもいる。

両者に共通していることは、なんだかんだで日本語実況が無くとも、英語実況のみでも、そもそも中継すら無くても、この数ヶ月間はどうにか楽しんでいたということだ。

また、J Sportsのサイクルロードレース文化は、良くも悪くも成熟した部分があると思う。
ダゾーンは、サイクルロードレース実況が未経験の木下さんを実況に起用するように、完全に黎明期である。

玄人向けのJ Sports、初心者向けのダゾーン、というような棲み分けが確立しても面白いと思う。
ダゾーンはJ Sportsではないのだから、J Sportsのような中継スタイルを真似する必要はない。

いずれにせよ、2つのサイクルロードレース中継が存在することで、良い意味で切磋琢磨しあえる環境がようやく整ったのだ。

ダゾーンという黒船襲来をきっかけに、いよいよ日本のサイクルロードレース維新が始まろうとしている。
外敵・レース文化の破壊者とまで評されたダゾーンには、新たなサイクルロードレース文化を創造していくことを期待したい。

Rendez-Vous sur le vélo…

8 COMMENTS

Aki

こんにちは
今年は様々な意味で、見る側のサイクルロードレースファンにとっての不安、不満が噴出していますね。
ダゾーンに関しても、新参故の不満、ドコモ利用者優遇等々、あること無いことない混ぜで、私のようなネット音痴は戦々恐々です。
日本でサイクルロードレース放送と言えば、jsky時代からのjスポーツが不偏の局であり、永田さん、白戸さん、サッシャに、栗村さん、三船さん、土井選手なんかが絡んでワイワイと、見ている自分達が吹き出すような話しを交えながら、あっと言う間に時間が過ぎるのが定番でした。
野球、サッカー、モータースポーツ全般大好きで色々と放送を見る自分ですが、安定感、興味を引く内容、裏話、最新情報、全てにおいて満足できるのがjスポーツのサイクルロードレース実況です。
確かに一部のうるさ型(失礼)には、馴れ合いっぽくてうるさいとか、経過だけを淡々と放送すればいいなど、少数意見も耳にします。
私はサイクルロードレースの初めての実況が白戸さんと栗村さんで、その飽きさせない実況が楽しくて見るようになったので、jスポーツの放送形態が一番しっくりくるのです。
日本ではまだまだマイナーなサイクルロードレースを、数少ないファンの為にjスポーツは続けているし、放送イベントも工夫していると思いますし、プライドも感じるのです。
ダゾーンの放送はまだ見ていませんし、この先見るようになるのかもわかりません。
あきさねさんの今回のコラムで、現場サイドのやる気は感じられて少し安堵しましたが(笑)
あくまでjスポーツもダゾーンもビジネス。
採算の取れない商売はしないでしょうから、どんどんと切磋琢磨してもらい、更に裾野が広がりよりメジャーなスポーツとして認知されるならばそれが最良の結果になるのですが。
よもや、某アニメの人気に肖ってだけのみきり発車でない事を願いたいですね(笑)

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Akiさん

J Sky時代からの、長年のファンにとっては、J Sportsの中継に対する思い入れはひとしおなんでしょうね。
Akiさんの言葉から、強い想いを感じます。

J Sportsのファンを大切にする姿勢は、本当に素晴らしいですし、これからももっともっとやって欲しいなと思います。

だからこそ、新しいファン層の開拓をダゾーンに担ってもらえたらいいなと思うのです。
きっかけがダゾーンで、J Sportsの中継を見たら、よりハマっていった!みたいな新しいファンが増えてほしいなと願っています。

恐らく、ジロの放映権はしばらくダゾーンがキープすると思います。
(正確に言えば、ダゾーンの中継元となっているユーロスポーツ局が簡単には手放さないかと。)

J Sportsは、ツールドヨークシャーやアークティックレースオブノルウェーと言った新規に放送するレースもあるように、切磋琢磨が加速していってもらいたいです。

余談ですが、、、

> 野球、サッカー、モータースポーツ全般大好きで色々と放送を見る自分ですが、

ダゾーンでは、MLB、プロ野球(広島・横浜主催試合)、Jリーグ全試合、ラ・リーガ、リーグアン、セリエA、ブンデスリーガ、F1などなど、Akiさんのお好きなジャンルの中継が見きれないほどあります。

1ヶ月間無料期間があるので、せっかくなので試してみてはどうでしょうか?

登録にはクレジットカードが必要ですが、悪用されるようなことは全くありませんし、
解約もコールセンターとかに電話することなく、ネット上で簡単に出来ます。

参考:【DAZN】解約する方法

わたしも、自転車以外のスポーツもよく見る人なので、仮にサイクルロードレースが失われても契約を継続すると思います。
サイクルロードレース云々抜きにしても、良いサービスだなと感じている今日このごろです。

(…なんか、ダゾーンの回し者みたいですみません…。)

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Aki

うーん
あきさねさんのコメントを見ると、自分が単なる食わず嫌いだなぁと思えてきました(笑)
新しい分野の開拓、これからのサイクルロードレースとファンの未来の為に、選択肢がより増えると言えますよね。
スポーツ中継大好き人間として、ダゾーンの門戸を叩いてみようかなと思えてきました。

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Akiさん

ダゾーンはスポーツ観戦に特化しているので、スポーツ観戦好きには今後も支持されていくサービスになるような気がしています。

とはいえ、無限に時間を消費しかねないサービスなのでご利用は計画的にですね笑

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はま

あきさねさんお疲れ様です!

私の個人的な感想ですが、今回のDAZNのジロ中継は、ありだったかなーと思いましたよ!

J Sportsでも、ロードの中継観ますがどちらの中継もありだと思います。

確かに、今までJ Sportsで観てた人や、ロードレース・グランツールの中継を見続けてきた人には、実況は拙いし別府さんの解説が初心者に分かりやすく解説してるなーと感じますが、それで良いんじゃないかなと思ってます(笑)

どこでもそうですが、競争相手が増えるって事は、サービスの向上に繋がると思いますので、お互い独自の路線で潰し合わないように続いていけば良いんじゃないかなと思いました。

個人的には、ジロ最終日までに木下さんの実況がどうなるのか!?
も楽しみします(笑

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はまさん、こんばんは!

実況の拙さが、逆に初めてサイクルロードレースを見始めた頃のことを思い出させてくれます。
こういうところが、難しいんだな〜とか、個人的にも気付きが満載でした。

木下さんの実況の腕がどんどん上がっていくところを見るのも一つの楽しみですかね!
他にも上野さんや林さんも、恐らくサイクルロードレース実況は経験がほとんどないと思われますので、実況者が増えていくことも喜ばしいと思うので応援していきたいです。

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アライグマ

あきさねさんこんばんわ!
先日のロマンディのラジオ放送にて、コメントをいくつかさせていただいた、イケメン好きのアライグマのアイコンの者です笑
お気に入りは相変わらずユンゲルスです!横風作戦お見事!!!笑

さて少しDAZNについてコメントを。僕もジロをきっかけにDAZNの1ヶ月無料キャンペーンを利用してみて感じたのは、木下さんのたどたどしくも丁寧で、レース観戦を初めてする人たちと一緒に1から観戦しようとする態度にすごく好感を持てました。

確かにJsportsの育んできた自転車漫談などの文化(主に栗村さん…)に比べるとこれじゃない感はあると思うのですが、DAZNがどの層をターゲットにしているかについて考えると木下さんが起用され、今回のような実況をされたのは納得がいく点がかなりあるんじゃないかと個人的には思います。
そして休息日明けからは山本元気選手や、今中大介さんが解説で入ることが発表されましたね!レース観戦に厚みが増すのか、どうなるのか…笑
これからどういう風にしてDAZNがサイクルロードレースと向き合っていくか楽しみですね!

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アバター画像 サイバナ管理人

イケメン好きのアライグマさん、こんばんは!
あのトークは非常に盛り上がったので、またやりましょう!

山本元喜選手の現役選手による単独解説は非常に興味深いですね〜。
何しろ、昨年のジロを完走している日本人ですしね!

今中さんも、ジャパンカップでの現地解説などやっていましたが、テレビ解説は相当久々とのことで楽しみです。

J Sportsと違った雰囲気の、わかりやすい番組になってほしいなと願っております。
前向きに楽しんでいきましょう!

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