トム・デュムラン個人TT圧勝!ジロ総合優勝は本当に可能なのか?

一昨日の落車の影響を全く感じさせないゲラント・トーマスの見事な走りを見れば見るほどに、心が締め付けられる。
もはや、総合へのモチベーションを保つことも難しい状況にも関わらず、最後まで集中力を切らさず、ステージ2位の好タイムを叩き出した。

ナイロ・キンタナからは、2分04秒もタイムを奪う結果となっていた。
第9ステージでの落車さえ無ければ総合優勝の可能性は十分にあったと思うと、悔やんでも悔みきれない。

キンタナ以外の総合上位陣からも大きくタイムを挽回したトーマスは、総合17位から11位へと一気にジャンプアップした。
総合トップ10返り咲きは射程圏に捉えたし、山岳での調子次第では総合トップ5へ浮上することも可能だろう。
それでも、総合優勝はやはり絶望的に近い状況だろう。

そんなトーマスをさらに凌駕するような異次元の走りを見せていたのが、ステージ優勝したトム・デュムランだ。

ただ一人50分台のタイムを叩き出し、キンタナから2分53秒もタイムを奪うことに成功し、総合首位に躍り出た。
総合成績では2位のキンタナに2分23秒差をつけており、見た目には独走状態と言える数字となっている。

正直、これほどまでにタイム差がつくとは思っていなかった。
いくらデュムランがTTを得意とし、キンタナがTTが得意ではないとは言え、せいぜい1分から2分弱程度の差がつくにとどまるだろうと思っていた。

しかし、蓋を開けてみれば3分弱のタイム差。
何もキンタナだけが調子悪く遅かったわけではなく、ステフェン・クライスヴァイクには2分43秒差、ティボー・ピノには2分42秒差、イルヌール・ザッカリンには2分19秒差、バウケ・モレマには2分17秒差、ヴィンチェンツォ・ニーバリには2分07秒差と、総合上位陣に対して軒並み2分以上のタイム差をつけている。

キンタナはそれほど悪い走りだったわけではないのだ。
ただ、あまりにもデュムランの走りが突出していた。

デュムランは第9ステージ、平均勾配9.4%の区間が10kmほど続くブロックハウスの登りにおいて、キンタナから24秒遅れに留まっている。
ピノも同じく24秒、モレマは41秒、ニーバリは1分00秒、ザッカリンは2分14秒、クライスヴァイクは2分43秒遅れている。

今後もブロックハウスのような登りを含む山岳ステージはいくつも登場するため、再びキンタナからタイムを失うことが予想される。
だからこそ、第9ステージと第10ステージ、この2つのステージのキンタナに対するタイムの収支が、少なくともプラスになっていない限り、キンタナには絶対に勝てないと言っていいだろう。

このキンタナに対するタイム収支が唯一プラスとなっている選手が、トム・デュムランだ。

つまり、キンタナを倒す可能性を持った、唯一の選手であると言える。
マリア・ローザを巡る争いは、デュムランとキンタナの一騎討ちの様相を呈していると言っても過言ではない。

デュムランはマリア・ローザを守ることが出来るか

では、デュムランのマリア・ローザ獲得の可能性はどれほどあるのだろうか。

今後、登場する山岳ステージは、第11、14、15、16、18、19、20ステージとなっている。
そのうち、ブロックハウスのように頂上フィニッシュとなっているのは、第14、18、19ステージだ。

ブロックハウスでは、キンタナが残り約7kmの地点でアタックを仕掛け、平均勾配9.4%の区間で24秒のタイム差をつけていた。
キンタナの本気のクライムはこんなものではないと思うが、一つの目安として平均勾配9%程度の区間であれば、ざっくりと5kmで30秒くらいはタイム差をつけられると仮定して良いだろう。

第14ステージの登りでは、平均勾配8%ほどの区間が7kmほど続くため、デュムランは30秒ほどタイムを失うのではないかと思う。
第18ステージの最後の1級山岳では、平均勾配9.3%の区間が3.3kmほどあるため、ここでは20秒ほどタイムを失いそうだ。
第19ステージの最後の登りでは、平均勾配9.4%の区間が6km続いた後に、7.5%の区間が5kmほど続くレイアウトとなっていて、ここでも50秒ほど遅れるかもしれない。

山頂フィニッシュステージでタイムを失うことは、純粋に登坂力の差に起因するため対策のしようがない。
これらのステージで少なくとも1分、多くて3分はタイムを失うことになるだろう。

問題は、登りの後にダウンヒルが登場するステージだ。

ここでよぎるのが、2015年ブエルタ・ア・エスパーニャ第20ステージでの出来事だ。
リーダージャージを守っていたデュムランは、総合優勝を果たすファビオ・アル擁するアスタナの総攻撃を受け、登りで置き去りにされ、ダウンヒルでアシストをサポートを受けたアルが一気に突き放すという結果になった。

ジロでも、第11、16ステージでは、ブエルタの悪夢が再来する可能性がある。
ライバルチームの攻撃から、デュムランを守るために、チーム・サンウェブが獲得した選手がウィルコ・ケルデルマンだった。
しかし、ケルデルマンは第9ステージの落車の影響で指を骨折してしまい、リタイアしている。

またしても、デュムランは山岳で孤立無援状態に陥るだろう。
サンウェブに出来ることは、2015年ブエルタでアスタナがそうしたように、デュムランをサポート出来る選手を、あらかじめ逃げに送っておく前待ち作戦を決行することだろう。

マリアローザチームとして、集団コントロールも担わなくてはならない上に、サンウェブの選手が逃げに乗ることを他のチームは簡単には容認してくれないだろう。

特に危ないステージは第16ステージだ。
チーマコッピが登場する本ステージの3つ目の登りであるジョゴ・ディ・サンタ・マリアは登坂距離13.5km・平均勾配8.6%・最大勾配12%となっている。
登り終えるとフィニッシュ地点まで20kmのダウンヒルだ。
獲得標高が5000mに達するステージでもあるため、疲労した脚で第9ステージのブロックハウスよりも長い登りとダウンヒルをこなせばならない。

チーマコッピであるステルヴィオ峠を越えた先に、サンウェブのアシスト陣が残っているとは思えず、仮に逃げに選手を送れたとしても、逃げ集団からも脱落しかねないほどの厳しい登りとなっている。

1分から2分はタイムを失う可能性が高いだろう。
むしろこのタイム差に抑えることが出来れば、最終日のタイムトライアルで逆転可能だろう。

キンタナにとって有利な登りを含むTTで3分弱の差をつけられたなら、最終日の全く平坦な27.6kmのTTでは再び2分以上のタイム差を築くことは難しくなさそうだ。

まとめると、
現在キンタナのタイム差は2分23秒あり、

第11ステージ:+20秒
第14ステージ:+30秒
第15ステージ:同タイム
第16ステージ:+2分00秒
第18ステージ:+20秒
第19ステージ:+50秒
第20ステージ:同タイム
第21ステージ:-2分00秒

となれば、最終日のTTで再逆転して、23秒差で総合優勝だ。

ここであげた数字の正確さを検証することは、あまり意味がない。
例として列挙してみただけである。

山岳ステージで、相当際立った走りを見せない限り、総合優勝することは難しいように思われる。

アシストの働きが鍵を握るが、デュムランの底力にも期待

これからデュムランのマリア・ローザを巡る戦いが本格的となってくるが、サンウェブのアシスト陣の消耗が激しくなりそうである。

圧倒的な戦力を誇るモビスターは、サンウェブに対して波状攻撃を仕掛けてくるだろう。
モビスターの攻撃に、サンウェブのアシスト陣が耐え切ることが出来れば、デュムランの総合優勝も現実的なものとなるだろう。

そう考えると、デュムランvsキンタナのマリア・ローザ争いは、デュムランの分が悪そうに思える。

とはいえ、こんな分析は机上の空論であって、実際には第9ステージの集団落車然り、路上では何が起きるかわからない。

更にマリア・ローザの不思議な力があれば、普段登れないような傾斜もしっかり登れるかもしれない。
不確定要素はいくらでもあるが、確実なことは今後のマリア・ローザを巡る争いが白熱することだろう。

見た目のタイム差に一喜一憂できない、複雑な総合バトル。
最終日にミラノのポディウムでピンクジャージを着ているのは誰か。

トム・デュムラン、一世一代の戦いは続く。

Rendez-Vous sur le vélo…

4 COMMENTS

いちごう

このTTはドゥムランにとって快心の走りだったのではないでしょうか。
1997年のツールドフランス第12ステージ。55kmの個人TTでヤン・ウルリッヒが2位に3分差をつけた圧勝劇。その時を思い出すほどの見事なTTでした。

ブロックハウスの登りで置いていかれた時に無理に追わずにペースで行ったのも、ここで追い込んででダメージを残すことを嫌い、TTを最高のパフォーマンスで迎えることにフォーカスしていたのではないか、と思ってます。

もし自分の予想通りにドゥムランがブロックハウスでパフォーマンスを抑えていたとすれば、今後の山岳でそのリミッターが外れたときにどんな走りをするか…楽しみです。

しかし一方でサンウェブのアシスト陣の戦力はおっしゃる通り不安しかありません。
これからの各ステージ、スタート後のアタック合戦から逃げが出来てからの集団コントロールだけで精一杯になり、勝負どころで枚数を残せるとは考えにくいですよね。モビスターとスカイの攻撃で誰も居なくなるだろうと思います。
なにより山岳アシストの要のケルデルマンをアクシデントで失ったのはあまりに痛い。

そして、同じそのアクシデントでタイムを失い総合優勝がほぼ潰えた形のトーマスもまた快心の走りを見せてくれました。
落車さえ無ければグランツールで総合優勝争いができることを改めて証明してくれただけに、本当に惜しいですね。
しかし本人のモチベーションは失われていないのがこのTTで分かったのでどこまで順位を上げてくるのか、それも楽しみです。

一方のキンタナですが、TTはまあこんなもんだろう、といったところでしょうか。本来の能力通りだと思いますが、それでもデュムランとのタイム差はちょっと大きくなりすぎたかも知れませんね。
とは言えモビスターは充実したアシストの働きが期待できる分、山岳ステージではキンタナが有利なのは間違いないところでしょう。

ただ、今のデュムランの山岳能力がどの程度なのか、それによっては後々に3分という差はとても大きかった。ということにもなりかねませんし…。

そして一番の不確定要素はチームスカイですね。
もしも、スカイとトーマスが総合ジャンプアップでの表彰台を諦めていないとするならば…

スカイ勢が3位争いのライバルを振い落とすために動いた結果、マリアローザ争いのどちらか(或いは二人とも)をも振い落としてしまう可能性がある訳で。。。
なのでスカイとトーマスもまだ目が離せないと思われます。

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アバター画像 サイバナ管理人

いちごうさん

> ブロックハウスの登りで置いていかれた時に無理に追わずにペースで行ったのも、ここで追い込んででダメージを残すことを嫌い、TTを最高のパフォーマンスで迎えることにフォーカスしていたのではないか

鋭い考察ですね〜。
ペース走行が得意だから、そうしていたと思ってましたが、いちごうさんの見立てでは、デュムランはまだまだ登れるという見方が出来るわけですね!
ますます期待したくなります。

ひとます、第11ステージはなんとか乗り切りましたが、問題は☆5つのクイーンステージですよね。
モビスターやスカイは容赦なく逃げに選手送って前待ちしてくるでしょうから、どう凌ぐか。
普通にアシスト無しで対応を迫られるケースも出てきそうです。

一方で、トーマスは第11ステージで遅れてしまいました…。
まだ、身体へのダメージが残っているようで、心配です。
なんとか総合トップ10には返り咲いてほしいものです。

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いちごう

ドゥムランは第10ステージのTTの後の会見で「僕のTTはたしかに世界トップクラスだけど、僕のクライミングも段々と上達してきているんだよ。」というコメントを残してます。
これはまだ登りに余力があるということか、と自分は裏読みしています。

そして同じ会見でキンタナは「ブロックハウスでのドゥムランはちゃんとクライマーだった」と言ってます。これは山岳でもライバルたり得る存在だと認めてる訳です。ライバルが言うんだから登れるんだろうと期待してしまいます。

なので、山岳が続く第14ステージ以降ドゥムランがどんな走りをするか楽しみです。とは言えアシストが手薄なのは変わらないので、早々に孤立してしまうと厳しい状況になるのはこれまで通りではありますが。

トーマスは落車でタイムだけでなく、コンディションも落としてしまったようですね。
第11ステージ、選手によっては今大会の最重要とも言ってたそうです。
1つ1つの登りは大きくなくても、休むところが全く無いので早々にグルペットが出来上がってたのが、その厳しさを物語ってますね。
トーマスには何とか粘って貰って、回復した後半でのステージ優勝を期待します。

モビスターはアマドールが8位に上がったことでオプションが出来ました。
総合上位陣はキンタナだけでなくアマドールもチェックしないといけない訳で、サンウェブのアシストにとってはまた厳しい仕事が増えたな〜。と。
キンタナからすると、アマドールと二人で交互にアタックすればライバルを消耗させられますし、モビスターチームとしてはキンタナの総合だけでなく、アマドールでのステージ優勝や二人での総合表彰台も狙えるという形で、ますます有利になりましたね。

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アバター画像 サイバナ管理人

いちごうさん

デュムランは、まだ26歳ですからね〜。
同じTTスペシャリスト系の総合レーサーで言えば、フルームが初めてツールを制した時は28歳ですし、ウィギンスやエバンスはもっと上ですもんね。

デュムランには伸びしろいっぱいです。
(キンタナも26歳ですけどね!)

トーマスは、なんてことのない平坦ステージでも遅れてしまっているので、総合の挽回は厳しそうです。
回復できればステージ狙ってほしいですが、コンディションがあまりよろしくないなら無理せずリタイアしてもいいと思うのです。

元々有利なモビスターに、デュムランがどこまで対抗できるか楽しみにこれからのステージも見ていきたいですね。

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