ドゥクーニンク・クイックステップ戦力分析!【2019年シーズン】

シーズン73勝を飾ったもののスポンサー問題のため、チーム名が変わったドゥクーニンク・クイックステップ。

18勝のエリア・ヴィヴィアーニ、14勝のジュリアン・アラフィリップ、リエージュ~バストーニュ~リエージュ優勝のボブ・ユンゲルス、ブエルタ総合2位のエンリク・マスらタレント揃いのチームは今年もシーズン50勝越えなるだろうか。

ドゥクーニンク・クイックステップ2019ロースター

ジュリアン・アラフィリップ(26、フランス、PC・RS・D)
カスパー・アスグリーン(23、デンマーク、T・R)
エロス・カペッキ(32、イタリア、RC)
レミ・カヴァニャ(23、フランス、RS・U)
ティム・デクレルク(29、ベルギー、RS・U)
ドリス・デヴェナインス(35、ベルギー、RC)
フィリップ・ジルベール(36、ベルギー、P・U)
アルバロホセ・ホッジ(22、コロンビア、S)
ファビオ・ヤコブセン(22、オランダ、S)
ボブ・ユンゲルス(26、ルクセンブルク、A・T・U)
イーリョ・ケイセ(36、ベルギー、RS・U)
ジェームス・ノックス(23、イギリス、PC)
イヴ・ランパールト(27、ベルギー、T・RS・U)
ダヴィデ・マルティネッリ(25、イタリア、L)
エンリク・マス(23、スペイン、A・C)
ミケル・モルコフ(33、デンマーク、RS・L)
マキシミリアーノ・リケーゼ(35、アルゼンチン、S・L)
ファビオ・サバティーニ(33、イタリア、L)
フロリアン・セネシャル(25、フランス、RS・L・U)
ピーター・セリー(30、ベルギー、R)
ゼネク・スティバル(33、チェコ、PS・RS・U)
ペトル・ヴァコッチ(26、チェコ、P)
エリア・ヴィヴィアーニ(29、イタリア、S)

・新加入選手

レムコ・エヴェネプール(18、ベルギー、A・T・RC)←Acrog Pauwels Sauzen(アマチュア、ベルギー)
ミケルフレーリク・ホノレ(21、デンマーク、R)←チームヴィルトゥサイクリング(CT、デンマーク)

・退団選手

フェルナンド・ガビリア(24、コロンビア、S)→UAEチーム・エミレーツ
ローレンス・デプルス(23、ベルギー、C)→ユンボ・ヴィスマ
ジョナタン・ナルバエス(21、エクアドル、C)→チーム スカイ
マキシミリアン・シャフマン(24、ドイツ、T・RC)→ボーラ・ハンスグローエ
ニキ・テルプストラ(34、オランダ、T・R・U)→ディレクトエネルジー(PCT、フランス)


S:スプリンター
C:クライマー
A:オールラウンダー(ステージレーサー)
TS:10km以下の短い距離に強いTTスペシャリスト、TL:30km以上の長距離に強いTTスペシャリスト、T:どちらの性質も持つTTスペシャリスト
PS:スプリントに強いパンチャー、PC:上りに強いパンチャー、P:どちらの性質も持つパンチャー
RS:スプリントに強いルーラー、RC:上りに強いルーラー、R:どちらの性質も持つルーラー
E:逃げのスペシャリスト
L:リードアウトマン
U:石畳・未舗装路に強い
D:ダウンヒルが得意

※年齢は2018.12.31時点で換算

2018年シーズンの主な戦績

・シーズン 73勝
(うちワールドツアー 37勝)

・UCIランキング
 ワールドツアーチーム:13385.97pts(1位)
 ワールドツアー個人:ヴィヴィアーニ(2399pts、6位)
 UCIポイント個人:ヴィヴィアーニ(3106pts、3位)

・チーム勝利数ランキング
 18勝 ヴィヴィアーニ
 12勝 アラフィリップ
 9勝 ガビリア
 7勝 ヤコブセン
 5勝 ホッジ

・レース出場日数ランキング
 89日 モルコフ
 85日 テルプストラ、ヴィヴィアーニ、サバティーニ
 82日 リケーゼ

・グランツール総合成績

ジロ・デ・イタリア:シャフマン(31位)
ツール・ド・フランス:ユンゲルス(11位)
ブエルタ・ア・エスパーニャ:マス(2位)

・モニュメント成績

ミラノ〜サンレモ:ヴィヴィアーニ(19位)
ロンド・ファン・フラーンデレン:テルプストラ(優勝)
パリ〜ルーベ:テルプストラ(3位)
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ:ユンゲルス(優勝)
イル・ロンバルディア:セリー(24位)

戦力補強アナリティクス

評価:★★☆☆☆

ジュニア世界選手権、欧州選手権のロード&個人TTのタイトルを総なめにした怪物エヴェネプールを獲得したことは非常に大きい。元ベルギーサッカーU15・16代表で主将を務めたほどの人物で、サイクルロードレースに転向してまだ2年足らず。フィジカルの強さはトップ選手に負けず劣らずの逸材だ。U23世代をすっ飛ばして、ワールドチームに加入した。

エヴェネプールの武器は、抜群のスタミナを活かした独走力だ。ジュニア欧州選手権ロードレースでは、レース序盤から独走に持ち込み、2位に9分44秒もの大差をつけて優勝した。個人タイムトライアルでも抜群の強さを誇り、7戦5勝と勝ちまくった。ただし、ジュニアのレースではグランツールに登場するような本格的な山岳ステージを含むレース経験はない。また、パリ〜ルーベ・ジュニアではタイムアウトとなるなど、石畳への対応もまだまだといえそうだ。言い換えれば伸びしろはまだまだあるということだ。

クイックステップに加入したことで、春のクラシックでは頼れる先輩たちに囲まれながら石畳レースの経験を積むことができるだろう。また、マスやユンゲルスが台頭したようにグランツールレーサーを育成するノウハウもチームにはある。エヴェネプール自身は「グランツールに勝つことが最大の夢」と語っている。

ホノレは、昨シーズンにトレーニーとしてチームに加入しており、ツール・ド・ラヴニールではデンマークチームの一員としてチームタイムトライアルで勝利。独走力が高く、ロンド・ファン・フラーンデレンやリエージュ~バストーニュ~リエージュなどクラシックレースを好む選手だ。

逸材2人を獲得したが、流出した戦力はあまりにも大きい。シーズン9勝のガビリア、ロンド覇者のテルプストラなど、超主力選手の退団の穴埋めは行っておらず、大幅な戦力ダウンとなったため、星2つの評価とした。とはいえ、シーズン73勝をあげた巨大戦力はまだまだ健在。年間50勝を越えうる戦力は維持できている。

注目選手プレビュー

トレインの力だけでなく、単騎でも勝てるヴィヴィアーニ

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移籍1年目にして、シーズン最多勝となる18勝をマーク。強力クイックステップトレインとの連携は非常に良く、特にサバティーニとのイタリア人コンビの安定感は抜群だった。とにかく、ヴィヴィアーニを集団スプリントに絡ますことができれば、50%以上の確率で勝利できる。(2018年は集団スプリント32戦中17勝)

ヴィヴィアーニの真髄はスプリント力だけでなく、ワンデーレースでの立ち回りがうまいことだ。特にイタリア選手権では、パンチャー向きのアップダウンのあるコースで、少人数の逃げ集団に乗り込み続けて、最後はマッチスプリントを制して勝利した。

クイックステップトレインの集団前方を確保し続ける力と、ヴィヴィアーニ自身の立ち回りのうまさが相まって、集団スプリントで勝利を量産していたのだ。ヴィヴィアーニのためのトレイン要員の戦力は維持できているので、2019年シーズンも多くの勝利が期待できるだろう。

まだ進化途上にある真のオールラウンダー・アラフィリップ

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その高い潜在能力が一気に開花した一年となり、ヴィヴィアーニに次ぐ勝利数をマーク。特にフレーシュ・ワロンヌでは4連覇中のアレハンドロ・バルベルデを打倒し、ツールではステージ2勝と山岳賞ジャージを獲得。シーズン終盤の世界選手権では蓄積した疲労のため、最後の激坂で失速する姿もあり、イル・ロンバルディアを回避していた。

アラフィリップの武器は短い激坂の登坂力、爆発的な上りスプリントのパワー、スプリントトレインをけん引できるスピード、そして世界最高のダウンヒル技術だ。グランツールの総合以外なら、すべてのレースで勝利を狙える真のオールラウンダーといえる脚質の持ち主である。

ヒゲを生やしてイツリア・バスクカントリーに出場したところ、いきなりステージ2連勝を飾った。以降、験担ぎのためか最近ではヒゲがトレンドマークにもなっている。また、サングラスを外してフィニッシュ地点にやってくるので、最後のスプリントでもがいたり、勝利して喜ぶ姿の写真写りが良く、フォトジェニックで華がある選手だ。バイクコントロールに関してはペテル・サガンに匹敵する、あるいはそれ以上の技術を持っており、落車が非常に少ない選手でもある。(※2017年ブエルタ・アル・パイス・バスコでは補給ゾーンで落車した影響で膝を負傷し、長期離脱を強いられたことはある。たぶん油断していたと思われる)

2019年はアルデンヌクラシックに加えて、ストラーデ・ビアンケとミラノ〜サンレモもターゲットに入れている。ツールはステージ優勝を狙って出場する見込みだ。世界選手権もアラフィリップの脚質に合ったコースであるため、アルカンシェルも狙えるだろう。

グランツールとクラシックを狙う男・ユンゲルス

キャリア最大の勝利といえるリエージュ~バストーニュ~リエージュ優勝を果たした2018年。その一方でツールではガビリアのためのスプリントトレインの一角を担い、ツアー・オブ・ブリテンではアラフィリップのために連日のように集団けん引を担っていた。そして、世界選手権チームタイムトライアルの一員として優勝に貢献。この男もまた「ウルフパック」の精神を体現する選手の一人だ。

2016・2017年とジロで新人賞を獲得した以来のジロ参戦を表明。さらに、ロンド・ファン・フラーンデレンへ初出場する予定で、北のクラシックにも戦線を拡大。もちろんリエージュ~バストーニュ~リエージュ連覇も狙っているだろう。実に幅の広いオールラウンダーであり、どんな結果を残すのか注目の選手だ。

ルーキー離れしたスプリント力を持つヤコブセン

ルーキーながらシーズン7勝をあげた。プロ1・2勝目は3月のノケレ・クルスと4月のスヘルデプライスでの勝利だった。クイックステップが猛威を奮った春のクラシックでヤコブセンはもはやエースの一人として立派な走りを見せていた。シーズン終盤はワールドツアーを含むステージレースの集団スプリントで5勝あげた。

ガビリアが移籍しても、ヤコブセンがその穴を埋める走りを見せてくれるだろう2019年はグランツールで走る姿をぜひ見てみたい。

コロンビアン・スプリンター・ホッジ

ホッジもルーキーながらシーズン5勝をあげた。ヤコブセンが初勝利した2日後のハンザム・クラシックでプロ初勝利。さらに3日後のボルタ・ア・カタルーニャ第1ステージでワールドツアー初勝利をあげた。

ヤコブセンと同じく、ワンデーとステージレースのどちらにも対応できており、ワールドツアークラスの集団スプリントを勝ち切る実力も備えている。

ガビリアがいなくとも、ホッジもその穴を埋めるスプリンターとして期待されている。

グランツール表彰台を射止めたマス

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イツリア・バスクカントリー第6ステージでプロ初勝利を飾り新人賞を獲得。ツール・ド・スイスは総合4位で新人賞、そしてブエルタでは第20ステージで勝利を飾って総合2位と大躍進の一年だった。

山岳での積極的な走りもさることながら、驚きだったのはブエルタ第16ステージの32kmの個人タイムトライアルを平均時速49.231kmで駆け抜けステージ6位に入ったことだ。これだけのタイムが出せれば、グランツール総合優勝を狙える力を持っているといえよう。

2019年はツールに出場し総合を狙う。ほとんどチームのアシストは期待できないが、総合優勝候補として注目している選手だ。

熟練の技が光るジルベール

2011年に怒涛のアルデンヌクラシック3連勝を飾り、2017年はロンド・ファン・フラーンデレンで歴史的な55km独走勝利。キング・オブ・クラシックとして生けるレジェンドであるジルべールだが、2018年はクラシックシーズン未勝利だった。だが、それは決してジルベールが不調だったからではない。

ル・サミン2位、E3ハレルベーケ2位、ロンド・ファン・フラーンデレン3位、これらのレースの優勝者はすべてクイックステップのメンバーだ。つまり、圧倒的な実績を誇るジルベールは、ある意味では囮のような役目を果たしてチームの勝利に貢献していた。もし、2018年シーズン最優秀アシスト賞があったならば、サイバナとしては全力でジルベールを推したいと思う。

ツールでは第16ステージのダウンヒルで崖下に転落。衝撃的なシーンが映像に流れたものの、崖下から救出されたジルベールはカメラに向かってサムズアップして「問題ない」という表情を浮かべると、すぐに自転車にまたがり再スタート。普通に完走していた。ところが、その後の精密検査の結果、膝の骨折が発覚。時間の経過と共にパンパンに膨れ上がった膝の写真を自身のSNSにアップしていたように、全く大丈夫ではなかった。

大怪我から2ヶ月後、9月下旬にグランプリ・ディスベルグで復帰すると、クリストフ・ラポルトをスプリントで制して勝利。大クラッシュからの膝骨折からの復帰直後のレースでシーズン初勝利をあげたのだった。

これがジルベールという男の底力だ。2019年シーズンもジルベールはチームの勝利のために、あらゆる役割をこなして貢献してくれることだろう。

チーム総合評価

ステージレース:★★★★☆
北のクラシック:★★★★★
アルデンヌクラシック:★★★★★
スプリント:★★★★★
個人タイムトライアル:★★★★☆
チームタイムトライアル:★★★★☆
平均年齢:

2019年はシーズン73勝をあげることは難しいかもしれないが、50勝を越えることは十分できそうに思える戦力である。

世界選チームTTに出場したテルプストラ、シャフマン、デプルスの移籍は痛手で、チームTTの戦力ダウンは否めない。しかし、ガビリアの穴はヤコブセンとホッジが埋められる。ナルバエスは移籍したが、上りに強い期待の若手という点で、エヴェネプールがいるので何も問題ないだろう。

総合はユンゲルスとマスに好成績が期待できる。相変わらず山岳アシストは不足している点は懸念点であるが、デヴェナインス、カペッキ、ノックスらがその任を担うことになるだろう。

北のクラシックは引き続き潤沢な戦力をもってチームの誰かが勝てば良いという「ウルフパック」スタイルで勝利量産が期待できる。

アルデンヌクラシックはアラフィリップを筆頭に、ユンゲルスやジルベールもエースとして勝利を見込める。

スプリントはヴィヴィアーニだけでなく、ヤコブセンとホッジもエーススプリンターを託せる人材であり、今年もステージ勝利量産は硬い。

(おまけ)サイバナの推しメン:セネシャル

数年前のクイックステップは、春のクラシックでことごとく勝利を逃していた。それが2018年は3・4月のワンデーレースで11勝を飾るなど、勝ちに勝ちまくった。春のクラシックでの快進撃がチームを勢いづけ、シーズン73勝に達する原動力となったことだろう。

その春のクラシックでジルベールが表のエースアシストだとしたら、セネシャルはまさに裏方のエースアシストだったといえよう。セネシャルはいわゆる北のクラシックと呼ばれる2月下旬から4月上旬にかけてベルギーとフランス北部で行われるワンデーレースに9戦出場した。これはテルプストラよりもジルベールよりも、スティバルよりも、デクレルクよりも、セリーよりも多く、チーム最多であった。そして、その9戦のうち実に7戦でチームが勝利。セネシャルはクラシック戦線で最も働いたアシストだといえよう。

セネシャルの働きは多岐にわたる。詳しくはこちらの記事を参照していただくとして、集団けん引・逃げ潰し・ローテーション阻害・リードアウトトレインなどあらゆる業務をこなす。

その後、ジロではヴィヴィアーニのリードアウトトレインとして起用された。集団スプリントではヴィヴィアーニの背後をブロックするという地味でわかりづらい役割をこなす姿も見られた。

また、ジルベールの復帰戦となったグランプリ・ディスベルグにも出場。ラスト14kmほど残してジルベールとラポルトが集団から飛び出し、2人は協調しながら後続との差を開きにかかり、残された集団にはセネシャルが健在だった。セネシャルはライバルたちが先頭2人にブリッジすることを阻止しただけでなく、力を使い切ったライバルたちを置き去りにして、単独で先頭2人にブリッジを試みた。

フィニッシュまで残り500mを切ったところで、セネシャルは先頭2人のすぐ後ろまで迫っていた。これに焦ったラポルトは先頭で早めに仕掛けざるを得なかった。そうして、ラポルトの後ろで力を溜めたジルベールが残り200mでスパート。スプリンターのラポルトが途中で踏むのを諦めるほどのスプリントを見せて勝利。ここでも、セネシャルは非常に効果的な働きを見せていたのだ。

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アシストとしてだけではなく、ブリュッセル・サイクリングクラシック4位、スパルカッセン・ミュンスターランドジロ6位、グラン・ピエモンテ2位とスプリンター向けのクラシックレースで上位に食い込む結果を残していた。エースとしての走りもできるため、ますます今後の活躍が楽しみだ。

昨シーズン、セネシャルの名前が表舞台で大々的に報じられる機会はほとんど無かった。しかし、この男なくして昨シーズンのクイックステップの快進撃はなかった。セネシャルこそがシーズン73勝の原動力だったと、強く主張したい。

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